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記者が語る科学とメディア

196-4(946)記者が語る科学とメディア
若松征男、悠思社、1993

若松さんが岩波書店をやめて、大学院に入り、科学社会学という分野で、科学と社会の間のコミュニケーションを研究対象として取り組み始めたころのまとめである。1988年が大学院入学であるから、5年間の成果の一端としては、素晴らしい成果と言えるのではないだろうか。

新聞社、通信社の科学部記者は、この本の出版当時で東京に100人程度。その中から34人が109の表題について見開き二ページ、原稿用紙400字のもので5枚の分量で書いている。驚くのは、それだけの人数の人々からの寄稿であるにもかかわらず、短期間でまとめられているという点である。その編集過程は詳しくは書かれていないが、半年から一年なのではないだろうか。雑誌や科学誌の編集から比べれば、スピードという点では驚くべきことでもないのだろうが、期日を守るライターさんたちの力量に舌をまく。

というところで、原稿は玉石混交という比喩はあたらないが、長期的な視点のものあり、いまを追うニュースあり、エピソードありと多種多彩であることは否めない。

すでにこの段階で旧聞であったPCBの回収「いつのまにか二十年」などは、しっかりとフォローしたいと思うものの一つだが、2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴教授について、1988年、あわやノミネート前夜の思い出などが書かれているのも、別の意味で「その後」をフォローしてみたい気持ちにさせる。

若松さんの解題と1960年代科学関連ニュース年表など、わかりやすい。リスク・コミュニケーションの参考文献ともなるのではないだろうか。

「科学者とは、知的禁欲の世界に生きる人。縦横に好奇心を広げる人がジャーナリスト」と、序で中山茂さんはさらっとまとめる。また、「今後も改訂を加えて出版しつづけたい」ともあるが、出たのだろうか。
by eric-blog | 2007-09-11 09:48 | ■週5プロジェクト07
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