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北朝鮮へのエクソダス 「帰国事業」の影をたどる

187-3(891)北朝鮮へのエクソダス 「帰国事業」の影をたどる
テッサ・モーリス-スズキ、朝日新聞社、2007

長いトンネルを抜けて、列車は夜の雪国に出る。

その闇の下は決して明るくはなってこなかった、というのが、この本だ。これまで、脱北者らの手記などは何冊も読んできた。しかし、それらの物語は、なぜ、帰国事業が、誰によって進められたのかについて、詳しくは掘り下げてはいない。北へ帰る、その気持ちの強さに突き動かされた自分、あるいは父の気持ち、その決定の結果についての家族こもごもの気持ちのゆれしか、そこには現れない。

1955年から始まった帰国事業交渉は、赤十字国際委員会が主導し、日本赤十字社が実際の交渉団を送っているということだ。

ジュネーブの赤十字国際委員会のアーカイブに眠る資料から、北朝鮮への探索、そして帰国者本人らに対する聞き取りと資料などにあたって、編み上げられたのがこの本である。注釈もいれれば400ページにはなろうかという極厚本。

対馬も尋ねて、そこに朝鮮から渡っていた人がいないかとたずねるが、帰国事業で北朝鮮へ帰ってしまっており、その体験談を聞きだすことはかなわなかったと著者は言う。それにしてもなぜ、済州島など、南出身の人々までが、北へ?

李承晩体制の韓国に対する不信もあった。社会主義国をおすソ連や中国の姿もあった。そして、冷戦の固定化へと向かう国際情勢もあった。

本当に一人ひとりの自由意志で向かうのか、新潟に置かれた赤十字センターで、家族ごとに繰り返された儀式を経て、帰国の船に、人々は乗り込んだのだ。と、システムはいう。
その前の第二次世界大戦にも、戦後日本社会の差別についても、帰国者らのことばの裏に仄見える以上のことを著者は語っていない。

21世紀の国際的不安定地域のひとつ、朝鮮半島を読み解く、ひとつの鍵であることは間違いない。
by eric-blog | 2007-06-21 08:03 | ■週5プロジェクト07
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