186-4(888)転移する時代 世界システムの軌道1945-2025
ウォーラースタイン編、藤原書店、1999 The Age of Transition, 1996 原著の編集者はTerence Hopkins, Immanuel Wallerstein になっているのに、日本社会ってあからさまだね。 1500-2025という時代の中での「世界システム」を検討する研究プロジェクトから、第二次世界大戦後に絞った内容をまとめた論文集。 以下、6つの視点から、大きく67/73年前後に分けて、変化を見ている論文が中核である。 1945-67/73 67/73-90 国家間システム 冷戦構造の構築国家間システムの変貌 世界生産 拡大統合分極化・多国籍企業 世界労働力 テーラリズムの世界伝播・資本の拡大 世界人間福祉 福祉国家の絶頂期福祉国家批判 国家の社会的凝集力 あまねく解放が語られた時代逆流の時代 知の構造 コンセンサスの形成・反発抵抗対決対立と変容・進歩への疑念、科学への疑念、学の境界の崩壊 教育の課題は人間福祉の項目に入れられている。 いまの社会保険についての議論が象徴的だと思うのだが、番号や登録がなければ、わたしがわたしでなくなる時代あるいは社会なのであるかどうか、が鍵だと思う。 冷戦時代、武器がどちらの側から供給されるのかという構造が、隅々までいきわたっていた。という意味で、国家間システムは世界システムだった。 サブシスタンス生産から商品作物生産へと比重が変わり、商品作物の出来不出来で「生活の質」が激変するようになった地域や社会にとって、世界生産と世界労働力は、世界システムになった。 しかし、「福祉国家」や「解放」は、どこか先進国の片隅ないし国際社会の合意あたりで語られていただけで、世界システムだったとは言いがたい。ヨルダンの首都、アンマンでも「ミニスカートが跋扈していた」時代があったではないかと指摘することもできるが、その時ですら、首都とは無関係に生きていた人々が8割以上だったろうと推測する。 知の構造が対立の図式から、対立の構造そのものへの疑念へと変わってきたというのはわかる。いずれにせよ、知の世界の世界システムがどのように「世界」に影響するかのかがわたしには疑問だ。科学教育がいきわたってていない世界では、天動説であろうが、地動説であろうが、自分たちの経験知レベルにおいては、どちらを言おうが何の不都合もないがゆえに、地域のインテリが言えば、オウム返すだけのことだ。逆らう理由もない。そのレベルで、ヒトが相対性理論を信じているからと言って、それが「知の世界システム」にとって何になる? 「われわれが歴史を忘却することはあっても、歴史がわれわれを忘却することはない」本書について、ブルース・カミングス その歴史が、ローカルな地域自然とのコラボレーションとしての風土の多様性に生きる人々によって担われているということが、これらの論文からは見えてこない。それでいいのか、世界システム分析? しかも、それらの人々は確実に「長寿化」し、一人ひとりが及ぼす影響力が長期化しているのだ。日本人一億人に対し、現存する博士様たちは科学技術分野に限って10万人程度。http://www.nistep.go.jp/achiev/abs/jpn/mat103j/pdf/mat103aj.pdf 社会科学、人間科学の分野での博士号取得は、およそその半分程度だろうから、合わせても20万人いくかいかないか。 団塊の世代以降が初めて「大学進学3割」以上世代になるのであって、それでも大学卒業者がきちんと知的トレーニングを受けたと言える存在になったのかどうかは疑わしい。 (そもそも、大学での知的トレーニングって何だ?) 教育の「世界システム分析」において、中核国、準周縁国、周縁国という分類で状況を比較すると、中核諸国における20-24歳青年の就学率は36%、準周縁国では23%、周縁国では5%と、その格差は1980年代になっても変わっていない。 国家に限らず、周縁で何がおきているのかを分析していないのが、「不確実性」につながっているだけだと、わたしは言いたい。で、次のような分析につながるのだ。 「国家の社会的凝集力」ギョルギ・デルルギアン pp.187-225 「(中核諸国の)国家は二方面から集中砲火を浴びることになった。・・・「南」のマイノリティからは「多文化主義」を受け入れよという圧力を受ける一方で、排外的なキリスト教や前キリスト教的原理主義者まで含めた右翼ポピュリストからの圧力にもさらされることになった」221 「世界システムの支配的イデオロギーであったリベラリズムは、・・・無数のイデオロギー的・政治的難問に悩まされることになった。マイノリティの権利を認めれば「一人一票制」の原則を崩しかねず、マイノリティ救済政策をとれば実力主義と矛盾してくる。」221 「問われているのは、・・・大衆を近代国家機構の中に組み込んでいく主要メカニズムとしてのナショナリズムに他ならない。・・・民族という共同体を想像する場合、・・・政治単位として適合性を持つことがナショナリズムの出発点である。」221 「進歩の装いを施した発展の約束をばらまく中核諸国の地政文化的ジェオカルチュラルな姿」235が、いま問い直されているのだんよね。 中核、周縁の分析こそがおもしろいのだが、その枠組みでどのような入れ替わりや変化があったかを記述している段階の論文集であった。コンピレーションを独創的な面白みにまで進めるのは、難しいことなんだね。
by eric-blog
| 2007-06-14 10:24
| ■週5プロジェクト07
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