148-4(712)夜の言葉
アーシュラ・K. ル・グゥィン、岩波現代文庫、2006、単行本1985年 The Language of the Night, 1979, 1989 ファンタジーと言葉、岩波書店、2006 The Wave in the Mind: Talks and Essays on the Writer, the Reader, and the Imagination, 2004 今年77歳の著者の尽きることのないファンタジーの世界は、まだまだわたしを異界へといざない、そのことによって、わたしたちが何であるかを気づかせる。 この二冊はエッセイであるが、エッセイほど、書評、引用、まとめるのが難しいものもない。いい言葉拾い、に終わることをお許しを。 103 個人の私的な意識であるちっぽけな自我は、(わたしたちは基本的には同じなのだ)を知っており、...より大きなものの一部だということを認めなければならないことも知っています。自我が弱いか、あるいは他にましなものがない場合、自我は自分を"集合的意識"と同一視します。...真の意味での交わりや体験の共有を欠いた、空虚な形式だけのコミュニケーションと一体感に共通する集団思考のことを指します。自我はこうした中身のない形式を受け入れることによって"寂しい大衆"のひとりとなるのです。これを避けて真の共同体を獲得するためには、自我が内へと向うこと、群衆に背を向け、根源へと向うことが必要です。自我は自分自身の内の、より深い領域、つまり"自己"という偉大な、未開拓の領域を自分と同定しなければならないのです。心のなかのこうした領域をユングは"集合的無意識"と呼び、わたしたち全人類が一堂に会する場であるこの領域こそが真の共同体の成立の基盤であると考えます。それはまた生きた宗教の源、幻術、優しさ、自発性、愛の源でもあるのです。 そこへ行くにはどうすればいいのでしょうか。集合的無意識に至るための自分専用の入り口をどうやって見つければいいのでしょうか。 ユングによれば、第一歩はまず振り返って自分の影についていくことです。 ... 影は心の意識的な面と無意識的な面を結ぶ戸口に立っており、わたしたちはゆめの中で、姉妹、兄弟、友人、獣、怪物、仇敵、案内者の姿をしたこの影に出会います。影とはわたしたちちが自我として意識するものの中に入れたくないもの、入れられないものすべて、わたしたちの内にありながら、抑圧され、否定され、とりあげられることのなかった性質および傾向のすべてなのです。 このあたりは、すべてのことばを書き写したいぐらいだ。ユングを読んだ方がいいのか? 宇宙論について において、ル・グウィンは、科学的事実をもとに推論され、科学的事実に触発されたフアンタジーの的確さ、揺るぎなさ、論理のエレガンスに、SFの醍醐味はかかっていると指摘する。 フアンタジーと言葉からは、次の二ケ所を紹介しておきたい。 まず、トルストイが「不幸な家族はそれぞれである」という書き出しは、彼自身の物語りすら裏切るような、センテンスであること。45 ここでわたしはsentenceという、ここではセンテンスとカタカナで書かれている言葉に限り無くひっかかる。トルストイの言葉はあたかも「判決文sentence」のように響き、その後に影響をしたとということも含めて、裏切られるような断定をなぜ、彼は書き出しに選んだのか。 幸福がどれほどまれか、はかないか、どれほど得難いものか。トルストイは知っていたからこそ、単に、響きがいいからこの文章を使ったのかも、とは著者の言。 もう一ケ所は『声の文化・音の文化』のオングから。206 行為者は叫び、その叫びは行為なのだ。その行為はそれ自体の地域限定的、瞬時的な空間を作る。 声はその周りに空間を創造し、その空間は声が聞こえるすべての人を含む。それは個人的な球形あるいは領域であって、時間と空間の両方に関して限定されている。 創造は行為である。行動することにはエネルギーがいる。 音はダイナミック力動的である。話し言葉も力動的である。それは行動なのだ。 行為することは力を手にすること、力を持つこと、力強くなることである。 話し手と聞き手の間の相互的コミュニケーションは力強い行為である。個々の話し手の持つ力は、聞き手たちの同調によって増幅され、増大する。共同体の強さは、話しを通じての相互的同調によって増幅され、増大するのである。 発話が魔術的であることの理由はここにある。言葉は本当に力を持っている。名前には力がある。言葉は出来事であって、いろいろなことをなしとげ、いろいろなものを変えていく。言葉は話し手と聞き手の両方を変容させる。
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| 2006-09-11 19:14
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