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新ティーチング・プロフェッション

146-1(696) 新ティーチング・プロフェッション 教師を目指す人へのエール基礎・基本
曽余田浩史・岡東壽隆編著、明治図書、2006

最近の教員研修で、教員自身から「専門職」という言葉がひんぱんに聞かれます。しかし、本当にお粗末なのが、その専門職育成のためのプログラムだと思います。弁護士しかり、医者しかり、その他の専門職のいずれも、1年や2年の育成プログラムを持っているのに、教員は、とてもアバウトな「単位取得」だけで免許がもらえるといういい加減さが、戦後のベビーブームによる教員不足の時代から連綿と続いているように見受けられます。
その後、教員採用数が激減し、そのために就職先の魅力を失った教員養成系大学が「教育学部」を廃止するなどの変化はありましたが、基本的に「単位取得」免許制は変わっていません。
また、400倍、500倍とも言われた倍率の採用試験の質が、教員の質をあげたかどうかというのは、保証のかぎりではないでしょう。

2005年にピークを迎えたといわれる労働人口6870万人中、教員は100万人程度。(ちなみに法曹界は2万人程度、まだまだ狭き門。)
22才から60才の就業と考えると、約40分の一にあたる2.5万人は自然サイクルで、新規雇用する必要がある。しかし、2007年問題があるために、これから10年ほどは、3万人はくだらない採用が続くことだろう。

毎年、国立大学系独立行政法人で免許を取得している学生数は2-3万人。もちろん、日本は私立大学の比重が大きいから、それだけでも倍率は4倍にはなる。

もしも、中等教育段階の学級定員を20-30名にするとすれば、2-30万人の増員が必要だろう。それを10年で達成しようとするならば、現在の倍の雇用になるのだから、倍率は2倍程度に落ちる。

いまや、私立大学の方が、「教員採用試験対策コース」の設置など、「専門学校的色彩」の強い教育内容で、採用率をあげてきている。これからしばらくは、教員採用混線時代が続くことだろう。

さて、この本は、広島大学大学院教育学研究科の教授・助教授のお二人を中心に、中国地方の大学で教鞭をとっている人々、すなわちITET Initial Teacher Education and Trainingに関わる人々がまとめたものである。

題名に「エール」だなどと書かれているのだが、この本のどこをどう読めば「エール」応援歌が聞こえてくるのかわからない。強いて言えば「知は力なり」かな。これらの「知」がどのように一人ひとりの力になるような教員養成課程を工夫されているのか、ぜひ、知りたい。

・教師の仕事と使命
・教員養成システム
・教員に必要な資質能力
・教育の古典
・教員の仕事1 授業
・教員の仕事2 生徒指導と学級経営
・教員の仕事3 校務分掌と組織マネジメント
・教師生徒関係の構築
・教師文化
・学校の力を高める「効果的な学校」、日本の学校の強み
・学校を支える体制
・教育公務員としての教師
・学習する教師

以上が目次。

各項目について、基礎情報と参考になる知見がコンパクトにまとめられている。

【専門職性について】 
1.公共性と社会的責任によって特徴付けられる職業である
2. 大衆の保有していない高度の専門的な知識や技術によって遂行される職業である
3. 大学院段階の養成システム
4. 専門家としての自律性を保障する制度
5. 専門家協会の組織化
6. 社会的責任の自己管理する倫理綱領
職務上の自律性を保障されているのが「専門家」であるという以上の考え方は佐藤学『教育方法学』岩波書店、1996が出典らしい。そして、著者は、教師はそのほとんどの要件を満たしていないと指摘する。「医者ほど「高度」と言えるほどの、科学的に厳密で体系的な専門的知識や技術は存在しない。教育内容についての自律性は認められていない。資格取得も容易。・・・ゆえに準専門職」19-20
しかし、そこに「技術的熟達者」から「反省的実践家」への専門職像の転換を迎えることで、「不確実性と無境界性が高い」という特徴を持つ仕事について、教師が「反省的実践家」として「個別具体的な状況に応じて自律的に判断や意思決定を行わなければならない」22ことが指摘されている。このモデルはショーン『専門家の知恵』ゆるみ出版、2001から引用されている。

【組織的知識創造】
教師が組織として知的創造をすることができる背景を「形式知」「暗黙知」という観点から紹介。

【コルブの経験学習サイクルモデル】195
経験学習の4段階を次のように説明している。
・具体的経験
・反省的観察
・抽象的概念化
・能動的実験
これは2002年に出された「Conversational Learning」についての本に紹介されているものらしい。
本文が約200ページで、最後に15種類の授業評価(大学の)表と5段階評価での自己診断表が15種類添付されている。
A 子ども好きかどうか、教師に向いていると思うかどうか
B 教師の専門性と学び続ける姿勢、中立性、国際性についての判断
C スポーツ、ボランティア、野外活動、レクリエーション、集団活動の経験
D 体力、自律心、善悪、正義感、創造性について
E 授業評価を受けることについての感覚
F 教職につくために努力していること
G 教師のチーム指導、社会体験、組織性などの適格性についての判断
H 自分自身の性格や傾向について
I 教師の自己管理および教育連携も専門家との協力について
J 特に、社会性についての自己判断
K 教職課程の内容について
L 公務員とは、について
M 教員免許制度について、また現職教育について
N 教師になりたい度
・ 担当教員授業評価 30項目

教師の仕事について網羅的に簡潔にまとめているという点で、「買い」かもね。
by eric-blog | 2006-08-30 14:34 | ■週5プロジェクト06
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