人気ブログランキング | 話題のタグを見る

皇后の肖像

138-3(666) 皇后の肖像
若桑みどり、筑摩書房、2001

水野あしゅらさんというファシリテーターが得意とするのは「明治天皇」のまねである。とはいっても、物まねではない。顔を白塗りにした「公家顔」のパフォーマンスなのである。明治天皇が育った環境は、決してマッチョでもミリタントでもなかったというお話。
井沢元彦さんではないが、8世紀にすでに国軍を廃止し、血ともけがれとも決別することで生き延びた皇室が、軍隊のトップに祭り上げられるのだから大変だ。

若桑さんのこの本は、では明治時代、女性の表象はどのように変化したかを特に皇后に焦点を当てて辿ったものだ。450ページもの大著である。

良妻賢母という理想の女性のシンボルによって刷り込んだ 13

それが女性の国民化を進めたのだという。以下引用--------

明治5年の改革 26-27
第一 学制頒布 すべての国民が教育を受ける
第二 紀元節 を神武天皇に決定
第三 宮中服の洋装化
第四 徴兵令

反国民的女性に対する懲罰 71-73
菅野スガの絞首刑の意味
・天皇制への反逆
・政治活動を禁止されている女性によるジェンダー的境界の逸脱

一夫一婦制は近代国家の道徳整備の基盤 89
後宮の隠ぺいと妾腹の大正天皇

明治22年 憲法発布の式典に、天皇皇后が洋装で並んで出席 128

既成の女性道徳の破壊、混乱、解放 157
家父長制社会にとっての無秩序

明治23年 教育勅語の発布 178

儒教思想の歴史的役割の総括by家永三郎 176
律令的官僚政治の指導原理
貴族社会の宗教、芸術への耽溺への冷や水
集権的封建制度擁護の御用思想として切支丹や仏教の排斥、町民思想抑制
明治においては残存封建勢力のための抑制作用

明治12年 小学校修身『小学修身訓 上下』 西村茂樹 学問・生業・立志・修徳 187-199

明治3-40年以降に、和装の復活、儒教的復古思想 245

女性労働の呼び起こし 253
包帯づくり、養蚕、

最後に著者は言う。423
「この研究は二つのことを明らかにした。ひとつは明治政府が、新しい国家建設にあたってどのように女性を国民化したかについてであり、もうひとつは、女性の統御と支配のために皇后がどのような役割を果たしたかということである。 ・・・ 女性の国民化と国家的動員なしには明治の近代国家は建設されえなかった。」
「あらゆる人類の体制維持には女性の「参加」が不可欠であったこと」
近代国家
家族を国家の単位として、租税徴兵育成の畑とする。そのために女性の相対的地位を高める。一夫一婦制の創出。
西欧文化の輸入とそこで割り当てられている女性的な領域を皇后が行う。
儒教的道徳への反動化 明治20-30年代
皇后の肖像に示された二つの矛盾する表象、それはそのまま明治国家の矛盾する方針。


源淳子「日本近代ではすべての思想と行為における個人のモラル、すなわち「すべての権威から自由であろうとする個人の信念や信条害」が、あらかじめ犯罪視され、社会悪視された」

神話化された皇后像は女性性への民衆の信仰を吸収し、人工的に創造された国家を「母なるもの」として自然化し、時間を越えた永遠性を国家に与えるものとなった。


参考文献
川島武宜 「イデオロギーとしての家族制度」岩波書店、1957
by eric-blog | 2006-07-06 12:05 | ■週5プロジェクト06
<< インドの女性問題とジェンダー エバー・アフター >>