109-1(511) 奥丹後の「日の丸」
千田夏光、あゆみ出版、1990 聖徳太子の母である間人媛が、丹後出身だというのは丹後半島に行った時に知ったが、それが丹後王朝から大和王朝に対する政略結婚だったというのは知らなかった。あの天才は、異文化交流の結果であったものか。安彦忠彦の『ナムジ』など大和王朝の頃についてのコミックを読んでいると、そんな話ばかりだけれど。 結婚が王朝、部族、パワーバランスのためのものだったのは、なぜなんだろう。庶民には関係ないのだろうが。とはいえ、家族のためのものですらなくなってから、まだそんなに時間がたっていないのですよね。 大和王朝の女性の人権に対する感覚は、いまも、まったく変わっていないのですね。 さて、大和王朝と和解した丹後王朝のあった丹後半島における戦後教育の流れが、一人の人物、ちょうどわたしの父と同い年ぐらい、大正14年生まれの男性を中心に描かれていく。 戦後、手のひらを返したようにまったく違うことを教える教員の姿。幻滅しつつも、教員となって、それを反面教師としながら、子どもと向き合おうとする主人公。しかし、民主教育がだんだんと文部省によってくずされていく中で、よそ者としての教員、お上の言うことには逆らわない旦那衆によって決定される地域の意向、しかし、子どものために学校を中心によりよい教育を目指して取り組んで行く中で協力関係が築かれていく。「日の丸」についての戦争中の記憶と上からの強制にもゆれる地域。 400ページを超える小説である。 主人公が「愛国心」「天皇のために死ぬ」ことを思い込むに至った、そして戦後の教員に裏切りと大人のいい加減さを学んだそもそもの思い込みが、実は明治25年以降の国民皆兵化策の結果であることが明らかにされる。 明治19年、山川浩という陸軍大佐を東京師範学校に任命。(このあたり、そして戦後の教育政策などについては小説とは言え、史実)それまで国民皆兵で徴兵しても、ちっとも「皇国の兵隊」にはならなかった農民たちに剛をにやした結果、21歳で徴兵する前に教育しておかなければ、「天皇が現人神」「死は鴻毛よりも軽し」なんてことは思うはずもない、と。どうすれば、子どもの頃から効果的に教え込むことができるかを研究させた。 明治22年、天皇皇后の「御真影」を配布、正月、紀元節、天長節、明治節などに奉り、最敬礼。 明治23年、教育勅語、上記の儀式の時に奉読。小学校修身の授業で丸暗記。 同年、師範学校卒業後に6ヶ月間の特別教育を必須にする。内容は軍隊教育。皇国史観と軍人勅諭の徹底。 明治26年、『君が代』を小学唱歌としてその他の歌の上位に位置づけ、上記儀式の時に斉唱。明治初期に定められた商船国旗、海軍国旗、陸軍国旗の中から商船国旗である『日の丸』を選び、上記儀式のある日に掲揚。「4点セット」の完成。 小学校の教科書に、兵隊さんについてのお話、てんこ盛りになったのがいつかは書かれていないが。 これらの方法が本当に功を奏しだすのが40年後であった昭和初年。そして、戦争群。 戦後になって、 昭和27年、講和条約発効。 昭和28年、公選制教育委員会制度。特殊学級、養護学級などの開始。教科書の選定。 昭和31年、新教育委員会法6月2日。10月教科書調査官、11月勤務評定開始、 昭和33年、学習指導要領に「日の丸」「君が代」 昭和36年、全国一斉学力テスト。 昭和38年、人的能力開発答申、「3-5パーセントのハイタレント養成のための教育」 昭和39-40年、教科書の内容増加。理数科の強化。 昭和42年、紀元節を「建国記念日」に。国防教育の必要性を文部大臣が。 昭和49年、教頭のポストの法制化。田中角栄、教育勅語賛美。 昭和51年、主任制度も法制度化する管理職規則改正。 そんなことを成人した教え子が、調べ、逆に教えてくれるようにもなる。一つずつの種に希望をつないで、小説は終わる。同和地区には「日の丸」「君が代」の強制はなかったとも言われているが、いまはどうなんだろうね。 京都の蜷川府知事の存在にも守られたこの地域の歴史は、その他の地域の歴史とどのように違っているのだろうか。 著者は、1924年の大連生まれ。毎日新聞記者から著述業に。彼の人生も、オーバーラップするのだろうな。 これは、教育を志す人、必読だね。いま、教育学部では何を教えているのだろうか。わたしが10歳、小学校4年生の時は、確かに「理科教育」がかまびすしかったなあ、指定校とか研究校だったよ、わが母校も。
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| 2005-11-15 11:40
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