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相模原事件とはヘイトクライム

相模原事件とはヘイトクライム

保坂展人、岩波ブックレット、2016

2777冊目


世田谷区の区長という立場の人が、この本を書いてくれたことの意義は大きい。

相模原やまゆり園襲撃事件に対する社会の姿勢を、ビジョンを示してくれるからだ。


その姿勢とは、「奪っていい命など存在しない」ということであり、優生思想からの決別である。


福島智さんは全盲ろうの障害がある。彼はやまゆり園での障害者殺害を「二重の殺人」と呼ぶ。肉体的に殺された被害者の物理的殺人と、その殺害が意図した「重度障害者」の実存的な殺害だ。園で殺された人々は、「象徴」として殺されたが故に、その衝撃が日本全国、そして世界にも響いたのだ。特に、障害のある人たちのショックと恐怖は、なみなみならないものだった。


加害者が大島衆議院議長に書いた手紙の中で「国家のために重度障害者を殺害する」ということが書いてある。国家による殺人を許容していることと、優生思想の二つの罪が、この文章についてはしっかりと否定されなければならないと私は思ったのだけれど、そのような発言はついぞ時の政権中枢にある人たちから聞くことはなかった。彼らには理念の言葉がないのだ。人権に連なる思想、哲学がないのだ。スピーチにビジョンがない。


著者は、国家による優生思想の事例としてナチスドイツのT4作戦を上げている。最近になってドイツの精神医学界の重鎮から明らかにされた事実に基づいて番組が製作されている。「それはホロコーストの予行演習だった」。強制収用所でのユダヤ人虐殺の以前に、193991日に「安楽死命令書」がヒトラーから出されている。


最近明らかにされた事実とは、障害者、結核患者などが「価値なき命」として安楽死を強制させられるということが、医師界の手動で始まったのだということです。その主導者を恩師とするシュナイダー氏が、恩師の死を待って初めて事実を表明、謝罪したのです。


そして、20万人もが殺された虐殺の中心的なセンターであったハダマー収容所では、まるで731部隊の実験室のように、人体解剖も行われ標本が切り取られたりもしたというのです。


国家による優生思想はナチスドイツだけではありません。日本社会も問われているのです。


1940年にT4作戦についての報告書でプラウネ神父は「老人性不調」の人々に対象であったことを指摘し、対象がどんどん広がることを示唆しているといいます。『ナチスドイツと障害者安楽死計画』


4章の「ヘイトクライムの連鎖をたつ」がなんだか大量殺人とが一緒にされて、納得できなかったが、


2006年に国連で採択された障害者差別禁止条約。それは「殺されていい命などない」ということだ。


国家のための殺人も、国家による殺人も、国家を人権の前に置く思想ではなく、社会は人のためにあるということを、私たちは確立してきたし、これもそれは地球の未来に繋がるものだ。


と書くと、「地球」のための人口抑制政策との関係はどうなるのだろうかという次なる疑問が湧いてくるのだが、それはまた別の物語。かな。


「産む産まないは女性の権利」という課題も、いまの出産前診断では障害の有無が色濃く影を落としているし。


様々続く論点はありつつも、優生思想という国家による御都合主義、生産性、効率至上主義による殺人には反対という選択ははっきりと、この社会の共通理解とビジョンとしたいと思っている。



by eric-blog | 2017-05-03 06:04 | □週5プロジェクト17
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