男が痴漢になる理由
斉藤章佳、イースト・プレス、2017
2933冊目
著者は、痴漢をした男性に対する更生プログラムを実施しているクリニックの精神保健福祉部長。その経験から紡ぎ出されているのがこの本だ。
https://dot.asahi.com/dot/2017120500010.html?page=1
痴漢は常習性があり、逮捕されても「運が悪かった」だけと思い、再犯率が高い。
被雇用者が6割を占め、その他の刑法犯における構成割合と大きく異なる。161
ストレスの解消法にもなっている。
性的な興奮を求めるよりも、「捕まるかも」というスリルとリスクの刺激によって行う「依存症」だと考えるべき。だからこそ、治療することが大事。
そして、日本社会の「男性優位文化」が彼らの行為を援護する。彼らの支配欲、優越感、女性を性的な対象と見て、人格として見ないなどの傾向を批判することがない。
「痴漢も、女性が嫌がることをして、追い詰め、傷つけ、征服し、その結果として優越感を得る行為です。会社や家庭で不当に扱われていると感じているものにとって、それは計り知れない刺激となります。」79
彼らにはまた自己中心的に組み立てられた「認知の歪み」があります。(もちろん、性差別のある社会において社会的に形成されているわけですが)90
「問題行動を継続するための、本人にとって都合のいい認知の枠組み」92
痴漢行為が常習化している者には強い意志がある。やり続ける中で認知の歪みが増していく。そのように「育っていく」のだ。94
治療プログラムの中でもその認知の歪みを矯正していく。
「痴漢神話」を助長する日本社会の男尊女卑の文化。100
痴漢が生きがい。四六時中、そのことを考えている。107
女性の恐怖心を熟知した上で、犯行に及ぶ。119
インターネットには痴漢についての書き込みがあるサイトがある。そこでは手柄話のように自分のやった痴漢行為が自慢げに披露されている。それに刺激されてやる人もいる。133
初犯では実刑にならないことも、「認知の歪み」を助長する。
逮捕が見直すきっかけにならない。「次はうまくやろう」151
再犯するときの達成感が高くなる。164
反省を強いるのは逆効果。行動を変える。182
反省は現実逃避。彼らの謝罪文は上滑り。
依存症のいずれとも同じで、「やめ続ける」行動こそが治療。
第七章は加害者家族への支援の問題。
なんと、加害者の父親が治療プログラムに参加することが加害者の更生につながるというのだ。「お前の育て方が悪い」などと子育てを母親に丸投げし、母親に責任を押し付ける父親が多い。父親の会で、彼らができることを明確に示すと、家族全体で更生支援のために動けるようになる。260
妻の会
母親の会
最終章、第八章は痴漢大国からの脱却。
「痴漢は依存症です」
「治療で止められます」などのポスターを出す方がいいのではないかと提案する。279
このクリニックの実施している治療プログラムが、逮捕後や刑務所などで全実施されることはもちろん、それだけでなく、痴漢未満の人にもアクセス可能になると良いよねえ。