歴史を社会に活かす 楽しむ・学ぶ・伝える・観る
歴史学研究会、東京大学出版会、2017
2918冊目
歴史学研究会
http://rekiken.jp
英文には1932年設立と書かれているが、和文にはその記述はない。戦中はどうしていたんだろう?
従軍慰安婦、朝鮮人虐殺記念碑への小池知事の対応、戦後70年の安倍談話などに対するアピールを採択している。
前書きを書いている清水光明さんは1982年生まれ。
歴史学と現代社会の四つの接点、娯楽、教育、メディア、博物館という視野の広さが面白い。というか、これらの分野で活動している歴史学者さんたちがいるということ。
23本の論考と12本のコラム。
全体を俯瞰することは編者に任せるとして、興味を惹かれたものについてのみ。
『観光コースでない沖縄』が「楽しむ」というカルチャーに含められていることに驚いた。修学旅行なのだから、今日行くかなあと。しかし、確かに沖縄旅行のガイドブックではある。15
出版は高文研、初版1983年。1994年には『韓国』!そして『ウィーン』『ベルリン』、『ミャンマー』など。最近読んだ『猫の帰還』などによってイギリスの受けた空襲など、大きな傷跡も知ったので、確かに「観光コースでない」旅ブック、いいかもしれないと思った。ついで、それが描かれた本も紹介しておいてほしい。
http://ericweblog.exblog.jp/237529059/
アニメで読む歴史
というのも面白かった。
II 教育
ここぞ真打! わたしにとっては。
1. 歴史教科書を学び捨てる
麻布中学が「学び舎」の歴史教科書を採択した!
途端に抗議の電話などが集中したという。その中で「ヘンダナ」探しを通して「教科書を学び捨てる」実践を展開。その奥深さに、実践者自身もワクワクしたていることがよくわかるレポート。歴史学習はこうでなくちゃ、である。
III 伝える
4. 草の根歴史修正主義と伝えきれないメディア
南京大虐殺否定に共鳴する若者。206
在特会の街頭宣伝が札幌でも展開されている。南京事件は嘘っぱちだと。
事のは発端は、冬季アジア札幌大会で選手が宿泊するアパホテルが客室においている本。
アパホテルは東京オリンピックでも撤去するつもりはないようだ。
https://www.apa.co.jp/newsrelease/8325
そうだろうなあ。小池知事のもとで、撤去されることなんてありえない。だとすれば、ことは大会側が、そのようなホテルをボイコットするかどうかだろうが、森会長もそんなことはしなさそうだ。
https://jp.reuters.com/article/apa-hotel-idJPKBN18T12W
猿払村の朝鮮人強制労働追悼碑の撤去。2005年から遺骨収集などに取り組み、2013年追悼碑建設を検討していた村役場に電撃が展開され、結局取りやめになった。たった一日の攻撃で。209
四回に渡り韓国との交流の実績も積み上げながらの活動の成果を、潰してしまうことができる運動のあり方、そしてそれに屈する、屈し続けている行政。
それはなんなのだろうか?
IV 観る
こちらも長く積み上げてきた歴史研究の成果、複眼的な視野が生かされた展示が、大阪維新の会という政治的な動きによって、あっという間に展示替えというところまで発展した例だ。
過激な攻撃に対してメディアは萎縮しているという。
それでも、学んだ人、生き証人たちの話に触れた人たちの記憶は残る。
教育は、地道な作業なのだ。
改めて、
歴史は誰のものか。
そして、歴史をなぜ学ぶのか?
意欲的な本である。この研究会はどのように戦前戦中を総括しているのかはどうすれば知ることができるのかなあ。