『戦場でワルツを』上映会とダニー・ネフセタイさんトークショー 2017年9月17日 日曜日 at 志木市 13:30-16:30 1982年6月、シャロン国防相は「40kmまで、4日間だけ」レバノンへの侵攻を許して欲しいと、ベギン首相に訴えた。その侵攻は、80km、ベイルートにまで迫り、2000年まで18年間も続くことになる。 ダニーさんも、1983年12月25日から一ヶ月、予備役としてレバノンへ。 ロシュ・ハニクラの海岸からレバノンへ入り、空軍兵を移送するトラックに乗って、バルック山(1943m)からのレーダー勤務に向かったのだ。 その時に起こったサブラー・シャティーラでの虐殺事件を素材にした2008年に制作された映画。1982年9月17日のことだった。なんと、35年前の今日だ。 その時、アリ・フォルマン監督自身、その場にいたのだ。しかし、ボアズが自分の見る奇妙な夢の話を監督に語るまで、その時の記憶がなかったことに気づく。 フラッシュバックされるベイルートの光景。 ダニーさんは映画からのシーンを抜き出して、解説してくれた。自分自身も、見るたびに発見、気づきがあるのだと言いながら。 シーン1 ボアズが語る彼がここ2年半ほど見続けている夢。26匹の犬が彼の寝室の窓下にやってくる。「降りてくるか、降りてこなければ村人たちを殺す」と、犬たちに迫られるところで夢から覚めるという。それは彼がいつもアラブ人たちの村で放し飼いにされている犬が騒ぎ出す前にうち殺す役目をしていて、26匹を殺して来たからだという。一匹一匹のことをはっきりと覚えているという。 シーン2 ボアズの話を聞いて、自分もそこにいた虐殺のことを思い出し始めた監督が、テルアビブの海岸に佇む。左を見れば、そこはベイルートの海岸。その時のことがフラッシュバックする。海岸から街に迫っていく三人の男たち。一人はカミル。この後、監督がオランダにまで会いにいく人だ。 シーン3 ベイルートを支配しているイスラエル軍の指揮官がポルノ映画(ドイツ語)を見ている。自爆テロに赤のポルシェが使われるから警戒に当たれと兵隊たちに指示。いる必要もない駐留に、倦んでいる日常。 シーン4 戦車から撃つ。戦車は60tはあり、映画の中でも乗用車を踏みしだき、家々の壁にぶち当たり、破壊しながら進む様子が描かれる。戦車に乗っていると安心感が高く、鼻歌交じりで、おやつを食べながら、イスラエル軍はベイルートに向かったのだ。力に酔う兵士たち。歯止めは効かない。 シーン5 6日間の休暇でイスラエルに帰る監督。自分自身が10歳の時にも戦争があったことを思い出す。その時は、夜には灯火管制がしかれ、人っ子一人、街にはいなかった。戦いは、兵隊だけのものではなかった。しかし、今のテルアビブには日常の時間だけが流れている。父親の第二次世界大戦の時の48時間だけの休暇の記憶も重ね合わされる。 シーン6 ファランへ党員たちによるサブラー・シャティーラ難民キャンプで行われた虐殺。キャンプは1948年の戦争で追い出された418の村々から逃げてきた人々が住み着いた場所。ベイルートの西。レバノンの大統領まで選ばれたバシールが爆死したことに対する報復として行った行動をイスラエル軍が黙認、かつ焼夷弾によって援護すらした。武器も制服もイスラエルから支給され、許された一日だけの大虐殺。 シーン7 従軍記者の記憶。事件の翌朝、難民キャンプの境界に行くと、難民たちが歩いてくる。女子供、老人ばかりの彼らは手を上げて出てくる。ワルシャワ・ゲットーの一枚の写真を思い出す。デジャブ。ユダヤ人は、狩られる側にいたのだ。 シーン8 走ってくるジープ。司令官が降り立ち命令する。「攻撃をやめろ」「難民は自宅に戻れ」。そこで虐殺は終わる。なぜ20時間前にその命令を出さないのか。 シーン9 あなたはその時、どこにいたのか。焼夷弾を上げていた19歳の彼。傍観者は実行者ほどの罪はないのか。イスラエル人も40万人のデモで、この虐殺事件を非難する。 シーン10 責任者たち。調査会が立ち上がり、国防相は批判される。がシャロンは首相として帰ってくる。2008年、ガザ侵攻をやめたのも彼である。 シーン11 映画の最後は、虐殺後の状況の実写フィルム。女性たちが叫ぶ。 2008年、この映画は1948年の第一次中東戦争、イスラエル独立戦争から60年の年に公開された。4年もの制作期間。 しかし、今、イスラエルは右傾化が進み、イスラエルを非難する内容が含まれる映画は許されなくなっているとダニーさんはいう。 お金のない国を支配するために見えない網がかかっている今。対抗することはより難しくなっている。しかし、怯えさせることができればそれで効果があるのだと、いま反撃する側は思っている。ハラハラしている相手をみて、嘲笑うのだ。力では戦うことのできない相手に向かって。 ダニーさんの空軍時代の同期が、2014年のガザ侵攻の時のトップだったという。素晴らしい人が、殺戮に手を染める。そして殺戮を正当化する物語が紡がれる。 「彼らはイスラエルに反対していたのだ。だから殺されて当然なのだ」と。 戦争を止めるしかない、のだ。人を狂気に引き込む戦争そのものを。 ■国のために死ぬのは素晴らしい? http://ericweblog.exblog.jp/237131305/ ■遠い共存 東京新聞連載 2017年9月 ■ガザの留学生 エラスムスの誓い
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