台湾生まれ 日本語育ち
ウェンユウジュウ、温又柔、白水社、2015
2879冊目
宮本輝氏の芥川賞の選評がすごく評判になったので、初めてこの人の本を読んだ。受賞作である『影裏』は予約中。
こちらに氏の選評が全文掲載されている。
https://www.j-cast.com/2017/08/18306220.html?p=all
台湾で生まれて、3歳で両親とともに来日、以来日本語で育った。
何国人というのは言えないけれど、「このコトバがわたしだ」という実感を持てるようになったという。176
彼女のルーツの中に、台湾の歴史が刻まれている。中国との関係、福建省から国民政府とともに渡ってきた人々が話す「台湾語」を母語とする台湾人。
祖母の時代には「日本語」を教育され、母の時代には「中国語」で教育され、本人は日本語で育っている。そんな状況を生きている人の人生、あるいは作品を「退屈だ」という日本人作家がいる。衝撃だなあ。
つい最近、我が家にゲストとして滞在した彼女も、台湾人だと言っていた。台湾語は書き言葉がないのだと言っていたが、その台湾語はどのことばのことだったろうか?
李良枝さんの著作に惹かれて、韓国語でも名前を書いてみるという。「オン・ユジュ」と書くハングル文字が可愛いという。ウェンヨウロウと名乗っていたら出会えなかった文字姿なのだという。075
李良枝、イヤンジ。 この名前は変換で出てくるが、温さんの名前はどのように入力しても出てこない。尹東柱さんもユンドンジュで出るのだが。つまりは、入力ソフトに登録さているか否かの問題。日本語変換の枠の中。
永住申請のための手紙を自分で書くことができなかったという。133
いいのだ。代書屋はそういうことのためにある。
温さんが惹かれる人々、そして本に出会いたいと思った。
『昼の家、夜の家』
『台湾海峡1949』
そして、彼女に「わたしは日本語人」とためらいなく話せるようになった馬祖への旅をプロデュースした管啓次郎さん。
国って何?と問う人々が、日本語で生きている幸せを、味わう。日本語も捨てたもんじゃないな。
「世代と世代を引き裂く「国語」同士のにらみ合いに気をとられていては、聴きとれない音が台湾には溢れている」200 ことの豊かさが、彼女の文章から匂い立つ。