いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件

いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件

大崎善生、角川書店、2016

2874冊目


わたしは死刑制度に反対である。

人間の社会は完全ではない。その社会に適応できない人もいる。

そこに生きる人の命を奪う決定そのものにも、間違いがあるだろう。


冤罪の疑いの入る余地のないこの事件。33万人の死刑嘆願署名がたった半年ほどで集まったという殺人事件だ。


事件が起こったのは2007824日。ネットの「闇サイト」で声を掛け合いであった男たちが金づるを探して21日から街を巡っていた。誰でも良かった。パチンコ店の店長でも良かったし、ATMから金を引き出した直後の女性でも、夜遅くのソープ嬢でも。


被害者が襲われたのは、そのような偶然の出来事。付近では「安全な道」と言われる道で、道を尋ねるかのようなそぶりに近づいたところを車中に拉致される。


なんの油断も、なんの落ち度も、なんの非行も、なんの何もない被害。


犯人たちは、職からあぶれ、時間を持て余し、家賃が払えなければ部屋から追い出されるというような状況にある男たち。ネットの呼びかけに応えて集まり、互いの真意を探り合い、犯罪歴などの虚勢を張りながら、強盗を共謀していく。


その生き方には何の同情心も湧かない。


呼びかけに応えたのは5人ほどだが、実行犯は三人。


一審では、事件の翌日に自首してきた一人をのぞいて二人が死刑。二審でそのうちの一人が減刑され無期懲役になる。しかし、その本人に余罪が、DNA鑑定などから浮かび上がる。迷宮入りしていた二つの殺人事件への関与が明らかになり、死刑確定。


死刑制度をなくすとすれば、このような反社会的累犯者に対する絶対無期懲役や、アメリカのように200年の刑など、実質的な無期刑が必要になるだろう。そして、再犯防止のための矯正指導やその後の生活再建への支援が必要だ。


彼らは死刑になって当然なのだという論調で徹頭徹尾描かれたこの本は、事件から5年がたった2012年に取材が開始され、2016年に上梓。もとより死刑嘆願署名にも、継続中であった裁判にも影響を与えていない。しかし、いまの日本で死刑制度に賛成している人が読んで「やっぱりね、こういうことがあるから、死刑は必要なのよ」と安堵し、自信を深めることには役立つ。


しかし、無期懲役になった彼、そして、最終的には実行には加わらなかった数人の彼らは、いまもわたしたちの社会に生きているのだ。排除は答えではないのだ。


そして、究極の排除ですら、多分、答えではないはずだ。人間がいかに生きるかという問題について。この本を読んだ人々が、他の視点からの本もぜひ読んでいて欲しいと思う。そして、このライターさんにも、加害者の側に対する深い取材、出所後に関心を持って欲しい。彼らには「監視」の目ではなく、「関心」を寄せられることが生きていく上で最も必要だと思うからだ。


被害者の方の冥福、ご家族及び関係者の方々のその後の良き生を祈念しつつ。



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by eric-blog | 2017-09-10 09:29 | □週5プロジェクト17 | Comments(0)
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