象徴の設計 「松本清張全集17巻」所収

象徴の設計 「松本清張全集17巻」所収

松本清張、文藝春秋、1978

2723冊目


明治維新はテロが吹き荒れた時だった。無血革命などと、どの口が言うのだか。

原田伊織さんの一連の本を読んでいると、そう思う。乱暴な時代だったのだ。


今、小倉にある松本清張記念館では「清張が描いた日本の近代」と言う特別展を開催している。明治、そして昭和の闇の部分を史家の目で小説にしたもの、そしてノンフィクションで描き出したもの。


その中で山県有朋について書いているのがこれだ。


明治13年、総理大臣であり、陸軍の長であった山県有朋が、いまだ「藩」「幕府」に対するほどの忠誠を元士族の軍人たちが持ち得ていないこと。徴兵制度によって兵隊になった百姓たちは賃金切り下げに反対し、また租税負担の重さに喘いでいるムラの気持ちや民権運動の熱を軍隊に持ち込んでいることを憂えて「軍人訓戒」(明治11)をより「天皇直結」にするべくそうを練ったものが「軍人勅諭」だ。


イギリス留学中の伊藤博文からも「日本の精神的支柱としては天皇が良いのではないか」と言うアドバイスを得て、天皇から直接の言葉とすることを考えた。


西周に起草させたが、言葉が固かったため、元新聞記者であった福地源一郎に修正を求め、また井上毅らにも推敲を求めた。


民権運動を軍隊に持ち込ませないために身上調査、内偵を徹底し、行動を抑圧。互いに連帯すること、連絡しあうことを排除し、上からの命令に直結するだけの存在にしてしまったのが、この勅諭だと言える。


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この起草に当たった井上毅が「教育に関する勅語」も起草しています。明治23年。


よく道徳として何も悪いことは書いていないと、教育勅語については言われますが、軍人勅諭と同じく「天皇に直結する」存在として人の行動規範を正しているところに最大の問題があります。


その構造は教育勅語にはっきりするのですが、家族、地域、職業、報国と、同心円的にわたしたちが互いによって存在を支え合っている関係を拡大していく先に天皇や国家をつなげていくのです。


いまの「1/2成人式」も、ともすれば、この同心円構造によって国家主義にあっという間に持っていかれそうで怖いと感じるのですが、その問題はここでは置いといて。


悪くない道徳だ、と評価する人がいます。年長者を敬うだとか、いまの時代にかけているものだから復活しようという人もいます。


しかし、軍人勅諭が兵隊たちの相互の連帯や農民たちの運動への呼応を妨げるものであったことを想起する時、「天皇に直結している道徳」の危うさが見えてくるのではないでしょうか?


これらの勅語勅諭は、まさしく人を「鵜飼いの鵜」にしてしまうものなのです。


「同心円構造」は、西洋のアイデンティティ論でも使われるのですが、それは「わたし」を核に置いて「わたしから見た世界の広がり」のような模式図です。


人を入れ子構造の中に捉えこみ行動規範のタガをはめようとする外在的な模式図である教育勅語とは全く異なります。


同心円構造の問題点は「多様性」の欠如にもあります。みんな同じ広がりの中に存在するかのような錯覚です。しかし、実は、家族も多様であり、地域も多様であり、国家も多様なのです。そのような見方を育てる視点が欠けています。そして、「多様性」はいま、環境教育にも人権教育にも求められる鍵概念の一つであ。


http://ericweblog.exblog.jp/20937993/


同心円構造の問題点はまだあります。


いまの時代に求められている「創発」の気性、問題解決のための分析的思考、考える力、最もかけているのは「協力する力」です。その互いに連帯する力を削ぐために構想された軍人勅諭。


全くもって人を馬鹿にしたような道徳だと思いませんか? 人と人との連帯を阻んでいると言うことは、究極的には人を信頼していないと言うことに他なりません。


教育勅語復活を言う人々には、いまの市民運動の盛り上がりを恐怖する、山県有朋と同じ、民権弾圧的姿勢が見て取れるのです。そして、そのことをはっきりと口にしている大臣もいるのです。「国民主権などと、国民が国家の前に来ることがあってはならない」と。その構造が見えないことが信じられない。


人権教育の大きな柱が「差別抑圧を受けている人々に対するエンパワメントの教育」です。


「わたし」「あなた」「みんな」の力。


勅語勅諭にはエンパワメントの思想はないのです。


ついでに言っておくと、「障害者差別解消法」や「男女共同参画」などにも、エンパワメントの発想と政策的手立ては、不在だとわたしは思っています。そのことはまた別の項目で。





■教育勅語について

http://ericweblog.exblog.jp/23501803/

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50764?page=3


■廃止の決議について

http://ericweblog.exblog.jp/23691849/




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by eric-blog | 2017-03-11 10:08 | □週5プロジェクト16 | Comments(0)
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