ERIC NEWS 528号 ともによりよい質の教育をめざして  2017年2月12日

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ERIC NEWS 528号 ともによりよい質の教育をめざして  2017年2月12日
ESDファシリテーターズ・カレッジ! すべての学びを参加型で!
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(文責: かくた なおこ 角田尚子
http://ericweblog.exblog.jp/
twitter : kakuta09  FBもやってます。)

アムネスティ・フィルム・フェスティバルで二日間に渡って8本の映画を見た。
http://www.amnesty.or.jp/aff/
・それでも僕は帰る
・ザトゥルーコスト
・女を修理する男
・蒼のシンフォニー
・ヴィック・ムーニー
・あん樹木希林と市原悦子を同時に観ることができます!
・密告者とその家族
・おじいちゃんの里帰り

一番ショックだったのは、パレスチナ人でイスラエルに密告していた「コラボレーター」のその後を描いたもの。パレスチナ自治区の成立とともに、自治区に居てもリンチで殺される危険が迫る。保護を求めてイスラエル側にやってきたのだが、在留許可証がもらえず、違法な存在のままである。年頃になった男の子にも「密告者になれ」という脅しが警察からかかり続ける。

もう一つ、引っかかったのは『あん』である。そのことについて、今回のニュースでは取り上げたい。

難民問題については、文化村でいま上映中のものがある。
・海は燃えている
http://www.bitters.co.jp/umi/
交わらない「日常」と「非日常」。難民問題の本質が描かれている美しい映画。

社会派映画ばかり見ているとしんどくなるので、時々、ぶっ飛んだものを観ます。
・きっと大丈夫
・王様のためのホログラム
この二本の映画、わたしは大丈夫という気持ちになります。映画は楽しい! でも、一番わたしが感動するのは、自然のものだと、最近はつくづく思います。人造物は「新奇性」がなければ、感動しない。それって大変ですよね。

Greenpeaceという国際環境保護団体は非暴力直接行動で環境問題についての警告を出し続けています。そのためにはしっかりとした調査、情報が必須ですが、それをどのように社会に提示するか、自分たちの方法論を「Mind Bomb」と呼んでいます。

ところが問題は、Mind BombはNumbする、慣れる、麻痺する、劣化するのです。より激しい、より珍しい、より有り得ない刺激でなければ、ニュースにならないのです。人造物は劣化する。

ありゃ? 法隆寺とか? ブルーモスクとか? ピラミッドとか? でも、身近に日常にはないよね。

土曜日に、代々木にあるじょむというサポートセンターで行われた「自己尊重トレーニング」で「ケアする200の方法」をやって、改めて気づきました。

このリスト、オススメですよ! 出典がわからないのが残念ですが、わたし自身の書き込みのあるワークシートを共有しておきます。参考にしてください!
http://ericweblog.exblog.jp/23641648/

教育は、基本的な当たり前のことを繰り返し伝え続ける試みだと思っています。身近で、日常で、かつ刺激的。だから、飽きない。そうなのです。人間は、自然物なので、いつも新しい驚きに満ち溢れているのです。



◆◇◆528号 目次◆◇◆

◆◇◆1. 『あん』からハンセン氏病について考える
◆◇◆2. ESDファシリテーターズ・カレッジ2017 のご案内
◆◇◆3. by ERIC 在庫処分2016!
◆◇◆4. with ERICこれまでの活動


◆◇◆1.  『あん』からハンセン病について考える ◆◇◆

ドリアン助川さん原作の小説が映画化されたもの。アムネスティの映画祭では、上映後、森元美代治さんのトークがあったので、とてもよかった。森元さんは今も全生園で暮らす元患者さん。小説や映画をきっかけに、助川さんとも樹木希林さんとも交流があり、特に樹木希林さんには「病気になんか興味はないのよ。わたし自身、全体ががんなんだから」と、個人的なことばかり質問され、丸裸にされた気がしたという。病気について聞かれないことがとても新鮮だったと。

『あん』の中で、「その人、らいじゃないかって」というセリフを吐くのは浅田美代子さん。森元さんは浅田さんは悪い人じゃないんですよ、セリフだから、とかばっていた。

こちらのブログにも、あのセリフは、浅田さんが演じる個人ではなく、社会の発するものだという指摘があった。世間の象徴なのだと。
http://andoraharu.blog.fc2.com/blog-entry-25.html

しかし、世間の象徴として「らい」という差別用語を使うことが映画で許されるということに戦慄した。2016年。21世紀。治療法が確立されてから70年、1996年に「らい予防法」が廃止され、国家的な謝罪が無作為であり続けた50年に対してなされてから20年。「らい」というかさぶたを意味する漢字が元になっている呼称から、病原菌を発見した学者の名前であるハンセン氏病という呼称が使われるようになったのが1873年、社会的に呼称を変える運動が実ったのが1952年。日本でもらい予防法が廃止にされた1996年にハンセン氏病(その後ハンセン病に)に統一された。
米国でカーヴィル療養所を中心に元患者の権利回復の運動が行われた。その記録が『アメリカのハンセン病 カーヴィル発「もはや一人ではない」 真実がつかんだ勝利の光=Alone No Longer』である。(スタンレー・スタイン、明石書店、2007)
http://ericweblog.exblog.jp/7705508/

そういう中で「らい」という呼称を改めて使うことに、わたしは違和感を覚える。しかも「陰口」の形で。そして、著者や出演者と知己を得たからという理由で、異議申し立てを心理的に押さえ込まれている印象すら、森元さんに対して覚えるのだ。

しかも、この映画にはゴーマニズム宣言に共通するものを感じてしまう。いいじゃないか、世間はそう言っているのだから、と開き直っているような。意図はどうあれ、病いに対する偏見の「寝た子を起こす」ものにも繋がるものだと思う。

「ぜひこの映画を観た人から、「偏見」という名のサングラスを外して欲しいと思います。たぶんそれは、世間の象徴を演じた浅田さんの願いでもあると思います。」という、そんな願いが叶えられそうには思えない。

偏見をなくすのは時間がかかる。この開き直りが人権教育推進の「行き過ぎ」に対する反動だとも思えないけれど、「差別用語の使用禁止」には意味があるのだ。

2016年の映画でこの言葉が使われたことには三つの罪がある。
・いまも差別的であるとして患者ら本人が撤回を求めてきた用語が、20年経った日本で、まだ使われていることを公共的に認めた。
・使われた結果、どら焼きを買わないという行動を人々が取ることを現実追認として描いている。つまり、「ありえること」として描いている。そのことによって病いに対する偏見を再強化した。噂話及び忌避行為が認められているものとして表現されている。作中、そのことに明示的に反対する人は一人もいないということも描かれている。
・文学や映画であれば、以上のような差別用語の使用と流布が許されるということを、元患者に認めさせた。つまり、口封じした。

偏見がなくなるには時間がかかる。この小説や映画がどういう影響を及ぼすかはわからない。しかし、2016年、そういう表現があったことは歴史に残る。

表現者らが社会的課題についてよく知っていることはよくあることだ。ライターであれ演者であれ、共感的理解こそが表現のベースになければ成功しないからだ。そこから吉永小百合さんなど積極的に発言する人も、一般の人からよりも生まれやすいと思っている。学ぶからだ。

学んでも、学んでも、自分の中の忌避感を克服することは、難しい。わたしは病いの兆候を見たとき、それを避けようとする行為が悪だとは思わない。だからこそ、理性による理解によって、感覚的な拒否感を克服する必要があるとも思っている。

そして、実際に出会うことで、人間としての距離が縮まることで、拒否感がなくなるのだとも思う。

ハンセン病については大学で「アクティビティ開発」の従業をした時に「しがまっこ溶けた」(LB13-1)というプログラムを学生たちが開発した。
http://ericweblog.exblog.jp/811967/
『しまがっこ溶けた−詩人 桜井哲夫との歳月』、金 正美(キム・チョンミ)、日本放送出版協会、2002年

著者は恵泉女学園の卒業生である。その後輩が作ったということになる。

その題材を参考に、わたしが研修で実践したプログラムは次のような流れだ。

1. アイスブレーキング
2. 天の職
3. 人生◯◯らしい
4. 「しがまっこ 溶けた」交流とは?
http://ericweblog.exblog.jp/1003884/

「天の職」というのは櫻井哲夫さんの詩だ。彼は自分の病いを自分の職業だというのだ。一生懸命、自分の職業を務める彼の姿に自分の職業生活を重ねて共感を深める。その上で「しがまっこ」心の氷が溶けるような交流とはどのようなものかを考えるという流れになっている。

『あん』で、あんこ作りの腕に自信を持ち、ぜひ人にも振る舞いたいと願う彼女の姿を見た後、ぜひ、このようなプログラムで「行動」に繋げる工夫をしてもらいたいと思う。

その他、「しがまっこ」を使った研修プログラムはわたしのブログで検索することが可能です。
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by eric-blog | 2017-02-13 14:02 | ERICニュース | Comments(0)
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