空へ 悪夢のエヴェレスト 1996年5月10日 ジョン・クラカワー、山と渓谷社、2013、単行本 1997年、 原著INTO THIN AIR, 1997 2669冊目 空気が薄い高山。人間は酸素がなくなると、活動が鈍くなる。体も脳も。 そんな極地であるエヴェレスト、世界最高峰に挑戦した公募登山隊が起こした大遭難事故を、もともと登頂記録を記事にするために参加していたジャーナリストの著者が、自分の実体験としてふりかえり、記述したもの。 空へ―エヴェレストの悲劇はなぜ起きたか 2003年Discovery Channel Everest: Death Mountain https://www.youtube.com/watch?v=-yK-OYKFHdE 1996年の春シーズン。その日、登頂を目指していたのは10隊超。公募隊2、二カ国共同隊、台湾隊、プラス2チームの単独登攀者、記録映画作成隊1、雑誌の取材隊1、その他営業遠征隊、清掃遠征隊など、15隊ほどが、無線やベースキャンプ、アタックキャンプ地などで結ばれたり情報共有したりしながら、それぞれに山頂を目指していた。 エヴェレストは大きいとはいえ、アタックルートは限られているし、アルミ梯子やロープが設置されている箇所は、基本的に一人ずつしか登攀できないし、降りるのも同じルートだ。キャンブ4から未明に出発し、午後2時までに登頂を果たせなければ下山するというタイトなスケジュールは、山行きであれば、エヴェレストに限らず常識だろう。 しかも、著者が参加していたロブ・ホール隊は、まとまって動くことを隊長が要請したために、著者自身もサウスコルからヒラリーステップまでの時間を詰めることができず、かなりロスタイムを被っている。 そして、午後3時過ぎ、山の天候は一転する。 8人が死亡。うち二人の遺体は行方知れず。 『孤高の人』のように、キャンプからほんの数百メートルのところでの死もあった。 低酸素による判断力と体力の低下が、情報や行動の混乱に繋がっていく。 この年のロプ・ホール公募隊には、難波康子さんという日本女性も加わっていた。エヴェレストを最終として、7大陸の最高峰踏破を成し遂げた初めての人。 しかし、彼女も、キャンプ4近くまで降りながら、しかも息があることを目撃されながらも、関係者全員が疲労困憊、酸素ボンベ不足、悪天候、視界不良、情報不足による探索不全などの複合的な要因によって、見捨てられ、死亡するに至っている。 山なのだから、仕方ない。 日本隊も同時期に登頂していて、同じくチベット側からアタックしていたインド隊隊員の遭難を見かけながら、救助していない。「8000メートル以上の高度は道徳を云々できる場所ではない。」 一人ひとりが命がけなのである。まずは、自分の安全確保。その上で力があれば、人のこと。 それでも英雄的な勇気と力を発揮して、救助に向かう人はいる。 著者は救えなかったこと、死んだ人々のことを引きずって、当初予定していた登攀記は書くに至らなかったのだが、多くの人に対するインタビューを通して、全体像(自分自身の認識の間違いも含めて)を明らかにしようと取り組んだ。 そう言う意味では、凄まじいドキュメンタリーになっているのだ。 文庫本で450ページを超えるこの本には、著者覚書、訳者あとがき、写真増補版につけた後記、石川直樹さんによる解説などが50ページほどもついている。 その中で、フィッシャー隊にいたアナトリ・ブクレーエフが出した『デス・ゾーン』についての反論も出されている。こちらも1997年。そして、その年の暮れにブクレーエフ自身もアンナプルナで遭難してしまう。 そうなのだ。5月のシーズンで、1921年から96年の登頂人数は630人。死者の数は144人。四人に一人が死んでいるのだ。決して安全な山などではない。 石川さんは言う。「公募隊」が悪なのではなく、ヒマラヤを身近にするためには、様々な協力と支援体制が整えられていかなければならないと言うことだと。 事故から20年。 世界最高峰は人を惹きつけてやまない。 映画化されている。 http://style.nikkei.com/article/DGXMZO93375240Y5A021C1000000?channel=DF130120166059&style=1 見たかったなあ。
by eric-blog
| 2016-12-19 18:41
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