政策会議と討論なき国会 官邸主導体制の成立と後退する熟議
野中尚人、青木遥、朝日新聞出版、2016
2643冊目
日本のいまの政治について書いている研究者の元で書いた青木遥さんの修士論文がベースになった本である。
青木さんは、内閣府及び首相官邸のホームページで公開されている政策会議についての情報を丹念に分析。設置主体、構成メンバー、出席者、発言、回数、成果や結果である。
政策会議という名称で呼ばれているわけではないが、内閣主導で設置される政策検討の会のことである。中曽根政権以来、廃止・休眠を含め設置された政策会議は273会議。現存する会議は144。それでもすごい数だ。
表2-20に28の事例が紹介されているが、例えば、「国家安全保障会議」は平成25年12月7日と、平成26年7月1日に9大臣会合が開かれ、議事録はなし、決定までの回数は1回ということが読み取れる。121
構成メンバーは、政治家・大臣・副大臣、行政官(官僚)、有識者(民間)の三者であるが、政治家だけのこともある。内閣官房、首相官邸に、大臣級レベルでの政策についての共通理解をはかるためのものとして機能しているのだ。
野中さんは、青木さんの分析に刺激される形で、いまの官邸主導体制がどのように確立されたかの全体像に繋げている。一つは、内閣による幹部官僚の人事権の掌握と政治任用の強化(補佐官、副大臣、大臣政務官)であり、一つは国会に置ける政策論議の空洞化である。(それについては、本会議の短さと討論のなさを野中さんが詳述)
55年体制、政権交代が起こるまでの自民党体制の元では、自民党内、与党内の政策検討が、官僚と族議員というラインによる審議会体制も含めて、機能していた。それに対して政権交代で、特に「政治家主導」を掲げた民主党政権、小沢改革によって、官僚との関係に変化が訪れる。が、しかし、政権内部の対立もあり、55年体制に戻ってしまう。
その過誤を見極めた上での安倍政権による内閣・首相官邸による主導権の確立。
大臣を中心にした政策会議の方針を閣議決定や法案提出に持ち込む。
安倍政権下では、首相主導の政策会議数も増える。108
人事権
政策決定権
国会での与党過半数
加えて与党による事前審査の骨抜き。
衆議院における小選挙区制。と政党助成金の内閣による配分。
与党議員はどんな役割を果たしているのかと、野中さんは問う。
熟議なきいま政権は、これまでの試行錯誤の結果として最強の「突破型」政権になっているわけだ。
数多い政策会議が政権にとっての戦略的な位置付けからコントロールされる。
それに対する監視のシステムや討論のシステムがいまのところない。
色々な意味で政治主導というよりは政権主導が確立したのがいまなのである。
いまや与党議員を選ぶことの意味は、政権に対する信任以上の意味はないのである。