104-3(489) 沈黙の向こう側
The Other Side of Silence --Voices from the Partition of India, 2000 ウルワシー・ブダーリア、明石書店、2002 1947年のインド独立に際して、ムスリムのための新国家建設、すなわちパキスタンとの分離が伴った。パンジャーブ地方に境界線が引かれ、政治的指導者たちが予想もしていなかった大移動が始まった。その数1200万人。著者はその後に生まれた人だが、1984年のシク教徒攻撃事件によって、印パ分離にまつわることは、インドの中に生きつづけていることを知る。1984年の事件は、シク教徒の過激派がこもる寺院をインディラ・ガンジーが攻撃したとき、護衛兵のシク教徒が彼女を暗殺。それに対してシク教徒一般への大衆暴動が誘発されたという事件だ。 そして1989年のムスリム殺害。 ヒンドゥとシク教徒は、ムスリムに比べると頭がいいと考えられていたり、ムスリムは技術職が多かったり、支配階級にはヒンドゥが優勢だったり、というステレオタイプやあるいは統計的傾向はあったにせよ、しかし世俗的には文化的言語的地理的経済的にパンジャーブ人として共通の文化圏を共有していた人々が、ただ一つの要素、宗教を優先しなければならなくなった。「心の中にも線を引き、周囲の政治的決断に会わない部分には蓋をしなければならなかった。...被害者は攻撃者になり、人々はしだいに彼ら自身の心を分断していった。「向こう側」の人間なら殺してもかまわないのだ」348-9 ・殺しの馬鹿騒ぎに浮かれて ・憎しみの荒波にさらわれちまって ・民族義勇団の団員として、「彼ら」のために感情を動かすことは許されない など、そして、誰しもがそのような「人生の狂気の瞬間に対する後悔にずっとつきまとわれている」103 被害者であるために加害を忘れたり、語らなかったり。語りにくい物語を10年以上かけて聞いてきた著者は、まず、自分自身の40年間というもの不通であった叔父をパキスタンに尋ねるところから始める。 パキスタン、ラホールに残った叔父はムスリムと結婚し、ムスリムに改宗している。家族の決定によって教育から引き離されていた彼は、教育なしで20歳の彼がインドに行って何ができると言って、分離の際ラホールの家に残る。病弱な母、著者にとっては祖母の面倒も見るつもりで。 しかし、いまだに彼は「ヒンドゥー」と呼ばれ、息子にはヒンドゥのスパイだと訴えられ、著者の訪問によって再開された彼の兄弟姉妹との通行を、「娘の結婚にさしさわるから」と閉ざされる。財産のために子どもによって家に閉じ込められたよその男、としての叔父。 ムスリムの仕方によって母を土葬したというその墓地に、彼は著者を連れて行くことをこばむ。まだそれはできない、と。 1200万人がすみかを移動した。百万人近くが死に、約75000人の女性がレイプされたり、誘拐されたり、別の宗教の男性によって妊娠させられたりした。何千という家族が離れ離れになり、多くの村は捨てられた。67 なぜ歴史家たちはこの歴史の裏側を探ろうとしないのか。334 我々がいまその渦中にあり、望ましい未来のために形作ろうとしている現在こそが、過去を再訪し、再検証しようとするもとになっている。335 「声」を拾い上げることは容易ではなかったが、それ以上に複雑だったのは声自体が差別されていたという事実だった。340 インタビューで離すのは男性。女性が語るときの視角の矛盾。ひとつはその文化を代表する価値観、もうひとつはより現実的な個人的体験からのもの。男性が語りたがっている話、こちらが聞きたがっている話に合わせる傾向。341 沈黙と言葉、記憶と忘却、痛みと癒し。343 さまざまなネガティブな物語の狭間に、暖かい話もある。自立する未亡人たち。そして「ヒンドゥやムスリムである前に人間である」ことを信じて始まった手紙のやりとり。「あなたが手紙に書いたような感情をヒンドゥーとムスリムが分かち合うことができていたら、あんな血みどろの暴動は起こらず、今はインドとパキスタンに住む私たちも、自分たちの国をもっと高めることができていたはずだ。...なお悪いことは、これらすべてのことが宗教の名のもとに行われたことです。あんな殺戮を許す宗教などありません。」359
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