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言語のレシピ-多様性にひそむ普遍性を求めて

104-1(487) 言語のレシピ-多様性にひそむ普遍性を求めて
マーク・C.ベイカー、岩波書店、2003
The Atoms of Language、2001

映画『ウィンドトーカー』はわたしにとっては第二次世界大戦後の戦争の質的な変化に驚愕させられた映画でした。女の子にやさしく接する戦士の姿に、「あぶない」と感じてしまう自分、しかし、映画は思っていたような展開ではなく進んでいったことに驚いたのです。すっかり「ゲリラ」「少年兵士」「自爆」などに感性が慣れてしまっていることに気づいたのです。

この本の最初に「コードトーカー」の事例から、人類の言語が多様でありながら、共通性があるということが語られます。そして、その普遍性を理解する鍵は子どもの言語習得能力であると。映画製作に重要な役割を果たしたのフィリップ・ジョンストンは、宣教師の子どもとしてナヴァホ・コミュニティで育ち、完璧なナヴァホ語を話す「数少ない白人」
『2001年宇宙の旅』において描かれたHALとの対話以来、35年の年月と膨大な資金が投入されたにもかかわらず、いまだにコンピューターが「話す」ことはなく、チェスがようやくできるようになったぐらい。その不思議さに比べて、人間の子どもが示す能力は、現在のトップの知恵を凌いでいると言える。すごいね。
「言語学者と認知科学者は、若干の嫉妬も込めて、子どもは生まれながらにして、スタート地点がかなり有利なのだという結論に達した」17
そのスタート地点が「普遍文法」。

「比較言語学で基本的に成し遂げなくてはいけないことは、類似性とちがいの両方を、矛盾せず、安易に妥協せず、一つの真理を主張するために他を犠牲にすることもなく、公平に扱うことである。」21
・統語論
・音韻論
・語形論
・語彙意味論
などの中で、この本では統語論に主眼をおいている。著者の得意分野だからだ。

なぜ、言語を研究するのか。
「人間のもつ、文化、思考、言語という、三大活動の中で、言語は厳密な知的研究に一番向いている」23そして、その言語活動を解き明かすことで、文化の問題にもせまることができるはずだと。

「言語の知識は、言うまでもなく、人間が文化的に相続した財産である。文化的集団のメンバーとしての個人のアイデンティティの大部分はその集団の言語を話すことができるというところからくる。文化的知識の多くはその言語で表現される。また、子どもが周りの人間と交渉を持つ際に、文化の他の様相を学ぶのと同じ環境で言語の様相も学ぶことは間違いない」251
「言語は文化的に伝達されるが、文化の他の側面とは独立であり、文化に即して説明することはできない」253

言語的多元主義によって、優劣を競い、一元化できる物差し価値観を追求することは危うい。言語的多様性はわたしたちの言語の間の翻訳可能性を示唆している。「お互いを理解しようとする努力を怠らない限り、深刻な誤解を生み出すことなく、言語の多様性を維持することができるようになるのである。ある言語が他の言語よりも価値が高いということを言わなくても、それぞれの言語によ価値を与えることができる。」293

最後に著者は、言語における複眼機能を指摘する。一つの言語よりも、複数の言語を操れるほうが、ものの見方が豊かになるというのだ。

なるほど、そう考えると、わたしたちの世界はおもしろい時代に入っているのだな。
by eric-blog | 2005-10-09 10:32 | ■週5プロジェクト05
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