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ヨーロッパから民主主義が消える 難民・テロ・甦る国境

ヨーロッパから民主主義が消える 難民・テロ・甦る国境
川口マーン恵美、PHP新書、2016
2482冊目

新書だからというわけでもないが、あっという間に読める警告の書。それは、2015年に起こったことが綴られているために、「あ、そういうニュースあったなあ」と跡づけるような感覚があるからだ。それほどの年だったということだ。

もやもやとした不安の共感が行間から溢れ出す。

ギリシアに左翼のチプラス政権が生まれたのが2015年1月。ギリシア経済危機を社会主義回帰で乗り切ろうという選択肢が選ばれた。

EU欧州連合が生まれたのは1993年。20年目の危機がギリシア経済危機だった。

一つの地域、一つの通貨。民主主義や理念を共有する地域という理想。

しかし、その地域が、いま中東からの難民によって脅かされている。辺境の国々は自衛のために国境をとざすことを余儀なくされ、それでも押し寄せる難民によって破られた防衛戦は次の国の国境線警備を強化させていく。まるでドミノ倒しに抗うように、国境線が次々と強化されている。

そのような事態を前に、著者は、「日本海が地中海のようにならないという保証はない。」と警告する。

「シリアの内戦は、イラクやリビアと同じく、つくられた紛争ダ。「アラブの春」と呼ばれた民主化運動は2010年より西側に煽られて、次々と既存の政権を壊していったが、その後、西側の唱える民主主義が根付いた国はない。」168

もともと「EU」は排他的であったのだという。ある地域を囲い込むということは、排他的にしかあり得ないのだから。地域の繁栄を求めて結束すればするほど、排他性は高まる。

2015年11月21日、ベルギー政府は警戒を最高レベルに引き上げた。

と、この本は結ばれている。そして、その後に起こったことの続きを、わたしたちは知っている。

2015年9月10日、ディ・ツァイトにスラヴォイ・ジジェクの論文が掲載された。201

「(アラブやアフリカにおける)国家権力の崩壊は、現地の現象ではなく、西側が利益を得ている結果なのだ。崩壊した国の増加は、偶然の不幸ではなく、明らかに、強国が経済的植民地に行使するメカニズムによるものである。なかでもリビアとイラクの場合は、西側の干渉がとりわけ直接的に行われた。」

かつてヨーロッパの草刈り場であったアラブから、あるいはいまでも西側資本がさまざまな搾取に余念のないアフリカから、ヨーロッパ人が民主主義の教えを垂れようとして失敗したそれらの国々から、怒濤のように難民がなだれ込んでくる。・・・そして難民の姿が「私たちのおかげで、あなた方は豊かになったのでしょう?」と無言の抵抗をしているように思えてならないのだ。203

TPPヨーロッパ版TTIPがすすめられている。
しかし、著者は言う。
ヨーロッパのオペラや歌劇がニューヨークの商業ミュージカル対抗できるのか。
フランスの地味な映画が、ハリウッド映画に太刀打ちできるはずがない。
ISD条項をたてにアメリカ企業が訴えをおこせば、勝てない。212

そのためにヨーロッパでは抵抗が強いのだと言う。

エネルギーと食料の自給は、主権保持のために確保すべきだ。215

「おわりに」に言う。

ヨーロッパ人の搾取の歴史は長い。その建前がキリスト教の布教から民主主義の布教に変わっているとはいえ、彼らが一方的にアラブとアフリカの既存の秩序を壊し続けている事実はいまも変わらない。・・・
欧米は、ヨーロッパの近・現代史の総決算をしないままでは先にすすめなくなるのではないか。

日本は、18世紀より行われ続けてきた彼の地での搾取を正当化する必要のない、世界で唯一の先進国の住人なのである。・・・欧米人とは違った独自の視点をもっと活用すべきではないだろうか。222

わたしもそう思う。そして、しかし、それはなんなのだろうか?


■2016年04月08日(金) 川口マーン惠美
ドイツの武器輸出急増が意味するもの
~世界は今、確実に「いつか来た道」を辿っている
まるで第二次大戦前夜
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48383


■ユートピアが爆発するとき
http://ritajiri.blog.so-net.ne.jp/2015-11-14
「ヨーロッパで自由な生活を営むという移民たちの夢が叶うことはほとんどないだろう。だからこそ我々は、世界中で奴隷を増やすばかりのグローバル経済の条件を、根本的に改めなければならない」
「一方、右派は、難民が自分たちの力で母国の状況など変えられないことなど百も承知で、すべての国民は自らの生活は自分たちで守るべきだという正論を主張する。どちらも悪い。両方とも偽善にすぎない」
しかし、ここで興味深いのは、左派である彼が、左派リベラルの偽善のほうが、難民排斥を訴える右派ポピュリストたちのそれよりも、より悪質だと結論付けている点である。「難民問題における最大の偽善者は、国境をなくそうというプロパガンダに励む左派リベラルである」というのが彼の主張だ。
by eric-blog | 2016-04-08 15:37 | □週5プロジェクト16
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