国際メディア情報戦
高木徹、講談社現代新書、2014 2453冊目 NHKのディレクターとして数々の番組を手がけてきた人によるメディア戦についての現状。 いまや、メディアは何を出すか、どうだすかというイメージ戦略が大切なのだと。 しかし、日本のメディアは、広告依存で戦略をたてているために、PR戦略は遅れているという。「ウチを取材するなら、でかい広告を載せるから」62 それに対照的に紹介されているジム・ハーフのやり方については『戦争広告代理店』にゆずるとして、とても興味深いことは、著者の日本のメディア戦略についての方針にぶれがないことだ。 日本社会が他国と比較して飛び抜けて安全で平和なことは、いまでも存在する日本の「売り」の大きなポイントの一つだ。226 それを国際メディア情報戦でやるべきなのた。 また、第二次世界大戦について、「人道に対する罪」が戦後とられるようになった。 敗戦国であるドイツと日本にはハンディがある。 ホロコーストという点では、ナチス・ドイツとは異なる日本を常にアピールする必要がある。 今の日本が、民主主義、基本的人権の尊重、人道主義、費用源や報道、思想や信教の自由、社会のあらゆる面での透明性の重視、差別との訣別といった価値観を、国際社会の主要な潮流と共有していることをアピールすることだ。253 「非民主主義的」「表現や報道の自由を制限する国家」という側面はメガメディアにとって格好の標的になる。253 『バナナの逆襲』 第一話が、「ゲルテン監督、訴えられる」であり、第二話が、その訴えられるもとになったそもそもの映画である。 Doleも告訴しなければここまで悪評をたてられなかったのに、とは第一話の中でゲルテン監督が語っていること。 ロスアンゼルス映画祭は、Doleからの圧力でゲルテン監督の『Bananas!*』を上映中止とした。プログラムによせられた原一男さんの憤りは激しい。「作り手にとっては映画祭は、何よりも作り手側の味方に立ってくれる存在である、という信頼に支えられている。・・・ロスアンゼルス映画祭は、・・・単なる利権集団であることを露呈してしまった。」16 それは映画祭だけでなく、そこに出品している作り手たちも同罪ではないかと。 Doleから「名誉毀損」で告訴すると通告を受けた監督を支援したのは、スウェーデンという社会そのものだと言える。まず、そんな圧力をDoleがかけていることをネットで知ったブロガーが、Maxというファストフード店のフルーツサラダに「Dole」の商標が貼ってあることに、嫌悪感を店に伝える。 店は事実関係を調べて、告訴を取り下げないと取引を中止するとDoleに申し入れる。 そのボイコット騒ぎを聞いて、国会議員が「上映の場がないのであれば、国会で上映会をしよう」と報道の自由のために場を提供する。国会がDoleに告訴を取り下げるようにと請願書を出す。 そして、告訴の取り下げおよび監督が起こしていた業務妨害についての損害賠償裁判について、勝訴が確定し、2000万円ほどの金額が支払われた。 一方、ニカラグアのバナナ農民たちのたたかいはまだ続いている。 上映会には『ユニクロ帝国 光と影』の著者であり、ユニクロが告訴された横田増生さんも来ていて、トークショーがあった。 200数十カ所についての名誉毀損の訴えがあった中、最終的には二点にしぼって裁判で争われたという。国内の残業と中国での深夜労働だ。 本の内容で言うと、ZARAとの比較がおもしろい。多品種少量生産、市場への投入のスピード、価格設定がユニクロより高いのに売れている。 ZARAは変化が速いので、顧客は年間平均17回も足を運ぶという! 他の類似店は平均3回だというのに。 あああ、これはわかるなあ。わたしも基本のいくつかを買った後は、ユニクロは無印ほどにも覗きにいかない。覗きに行っても、そのたびにがっかりする。代わり映えしない。 結局、横田さんは裁判に勝ったが、何も得ていないという。それがSLAP訴訟の消耗するところだろう。 その点について、プログラムに収録されているゲルテン監督との鼎談で、監督は言う。「非常に基本的な価値について語るようになりました。つくり、言論の自由、報道の自由、そして民主主義の大切さです。」22 ね、メディア戦略は同じなんですよ。メッセージをはっきりと。共通の価値について共感をえるように伝えること。 あああ、日本、惜しいなあ。
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| 2016-02-29 15:17
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