社会運動の戸惑い フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動
山口智美、斎藤正美、荻上チキ、勁草書房、2012 2448冊目 『バックラッシュ』(双風社、2006年)で山口智美さんは「ジェンダー・フリー」という言葉について次のように指摘している。 「この「ジェンダー・フリー」が登場した95年が、行政と学者主導の運動に転換した重要な時期」 「このことが、女性運動や女性の状況に、どのような影響をもたらしたのか。」 「そして、今後、女性運動は何を達成目標として運動をしていくべきなのか」0279 その山口さんが6年後に、バックラッシュが起こった原因は山口県の『日本時事評論』という出版物に行きつく。どこか中央に「フェミニズム」に反対するような動きがあって、そこからの提案でアンチフェミニズム、男女の性別役割擁護のような主張が巻き起こったという見方は間違っていたと総括している。 日本時事評論の読者には女性も多く、働いてもいる彼女等に「男女平等反対」ということはできない。94 しかし、共通点として神佛についての信仰を共有していて、「よりよい社会」のために役立ちたい、社会問題について学びあうという姿勢があったという。95 2005年に第二次男女共同参画基本計画。その後、条例づくりに関わる運動は一段落。99 フェミニズムに興味を失ってしまうほどまでに、フェミニズムの成果は見えず、しかも脅威すら感じさせない。101 千葉県での条例制定運動における保守分裂。 日本時事評論や千葉県自民党が、堂本知事が提出した条例案に対抗して、代替案をだしており、「良識的な男女共同参画条例」の制定をめざしたのに対して、千葉在住のジャーナリスト千葉展生さんは、条例そのものの制定に反対する立場で論戦し、保守分裂にいたった。両案とも廃案へ。 都城では、「性別あるいは性的指向にかかわらず」という文言で市条例が成立したにもかかわらず、その後の合併に伴う市長選では、反対の立場の候補者が当選。「すべての人」という文言に変更した新条例の採択となった。 福井県では、男女共同参画推進員の問題提起で、図書150冊が撤去された。それに対する運動について、この第五章をまとめている斎藤正美さんは次のように言う。 「あんたフェミニズムの活動は、現場である男女共同参画センターに足を運び、男女共同参画推進員に応募して地道な活動を行う・・・草の根的。 女性学。ジェンダー学者らは、国や地方自治体の男女共同参画において、審議会委員や講座講師として指導、啓発、情報発信を行ってきた。 フェミニズム側は、市外県外からの「著者」という当事者性を強調した運動をした。結果、福井に乗り込むも、行政に対して情報公開を迫るという一点突破の運動になっていき、男女共同参画というテーマでの強みを活かしきれなかった。現場主義に徹しきれないフェミニズム運動の現状が映し出され、課題を残した。」243 第六章は箱モノ設置主義と男女共同参画政策としてヌエックの事業仕分けの顛末を取り上げている。 そもそも女性は「教育」の対象なのか>? 「国際婦人年あたりから、団体活動(地婦連)の限界が見えてきた。」と設置の時の文部官僚だった志熊敦子さんは、婦人教育を教育委員会と二人三脚ですすめてきた団体の衰弱に対する危機感に言及している。 つまり、この会館の設置は運動が求めたものではなかった。 「行政の息のかかった地域婦人会などが弱体化してきたため、別途、新たに教育する女性たちを集めなくてはと考えた文科省によって、新たに教育施設として設立されたものだった。」271 荻上さんは「結びにかえて」で指摘する。 「地方のことは地方が決める」という姿勢。330 市民運動化する保守運動と、体制保守化していまフェミニズム。 「正義」は中央から地方へと啓蒙されるものなのか。 互いの悪魔化。 しかし、実際には「特定の思想にのみ基づいた、ステレオタイプな生き方をしている者は非常に限られている。331 互いに恐怖心を抱きながら、運動を先鋭化させていく。 地方によっては、無害な「勉強」で終わるケースや、保守的な家庭観をこそ大事にしようと活動するケースも存在している。333 啓発事業に偏るフェミニズム。それは運動の担い手が高齢化し、実践的な批評性が薄れ、メディアを通じた自主的な情報発信がか細くなり、「内輪向けのラディカルさ」が幅をきかせるなどといった、「情報弱者化したフェミニズム」の辿りついた隘路なのだろうか。 啓発以外のメディア戦略が希薄。 具体的な危機 実証に基づいた丹念な改善提言。 潜在的なニーズの発掘と発信。 現場のニーズに根ざした活動。 状況に合わせた新陳代謝の加速。 社会問題の具体的解決。 とても勢力的なインタビューによって作り上げられたすばらしい本である。
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