神殺しの日本 反時代的密語
梅原猛、朝日文庫、2011、原著2006年 2441冊目 教育勅語を再度求める動きがあるが、著者は、教育勅語は廃仏毀釈をしてまですすめた国家神道、国家という神、による日本の神殺しでもあったのだという。教育勅語をすすめることは、日本の経済発展をもたらした近代国民国家にとっては都合の良かった思想であっても、これからを導くことにはならないと直言する。 著者は、神仏習合に至った日本の思想風土そのものを再考すること、そこに深く学ぶことが、これからの文明を切り開くと言う。 さらには弥生と縄文の関係についても著者は言う。「日本は渡来の弥生人が土着の縄文人を征服することによってつくられた国であるが、精神的高さは縄文人のほうが勝っている」という歴史観。105 泰澄の始めた白山信仰こそ神仏習合の思想のさきがけ61 行基、円空につらなる白木仏像。 空海による真言密教で完成。 【私見】 1. 縄文は長く続いた社会であること。1万年続いた例は少ない。狩猟採集と思われていたが、例えば栗などの有用樹は優先的に栽培していたのではないかと考えられている。 2. 渡来人である弥生に取って代わられたというが、例えばアイヌや沖縄等、縄文的なものを残している人びとはずっと後世まで、「ヤマト民族」と係争をくり返している。日本列島が一律に弥生化したわけではない。 3. 言語で言えば、日本語は流入語と言われるように、東アジアの言語を構造的にはベースにしながら、中国語の単語などが入ってきている。しかも、その入り方が重層的であり、時代や文化によって生き残り続けている。例えば、仏教用語での漢字の読み方等は、一般とは違う。そのような受け入れ方は、近世、近代にも続いており、アイロンとアイアン、ミシンとマシンの関係にも見られる。 4. 田の神さまは山の神で、田植えの時にお迎えし、収穫とともに山に帰っていただくなど、水田耕作文化と土着のアニミズムの融合が見られる。 5. 聖徳太子が仏教を国教にしようと導入し、護国寺などの「国家」形成と宗教の関係が見られる。しかし、太子の家系はその後抹殺される。国歌宗教の抹殺か? 梅原が言うように、聖徳太子は「たたり神」として祀られる。 6. 神社には、「たたり神」を鎮めるためにまつったものと、山の神のようにアニミズム的なものが存在する。「たたり神」として梅原は菅原道真と千利休を取り上げているが、阿弖流為もわすれてはならないのではないか。 7. 「国家」的あるいは「全国的」なものと土着のものの並列は、沖縄におけるノロとユタのように、祭祀について、日本全土に存在する。ノロが神事の儀式を司り、ユタが先祖祭祀や口寄せ、生活知を持っていたように、神社や寺院が入り乱れて土着化し、また「国家」化する「系列化」することをくり返してきたのではないか。 8. 梅原が指摘するように、仏教が日本のアニミズムと習合したのは、行基・円空・泰澄などの地域に出かけて地域の寺を開祖した人びとによってできなかったか。国家宗教として導入されたものが、どのように土着化していったか。一人ひとりの宗教家の力量が問われたのではないか。行基の足跡、空海の「弘法大師」伝説が各地に残るように、何らかの渡来技術、新たかな霊験が人びとを新しい神や信仰に祀ろわせたのではないか。 9. 宮城県松島には「経典島」という島があり、昔、瑞巌寺が宗派替えをした際に、旧勢力の仏典が焼かれた島なのだという。そのことが語り伝えられている事実、にも驚くが、仏教の各宗派間の争いの激しさ、門徒、信者獲得競争の激しさにも驚く。いまも各寺院は宗派別に宗門冥加金をおさめているようだが、宗派の統一をはかる大戦争は起こっていないのか? 10. 中央と地元の有力者の争いは、守護と地頭の両建てにも見られる。中央の集権化、画一化、系列化と地域の自立独立、差異化による囲い込み戦略は、封建時代の大名にも見られる。 11. 江戸時代に寺受け制度によって檀家が定められ、ムラとテラの関係が整理された。テラは墓地の管理も行い、宗門帳で家系管理を司った。テラは高利貸しなども行い、大土地所有をするに至る。ここにも権力の複数系統化のメカニズムが見られる。庶民がいずれに祀ろうかは、ご利益次第だったのではないか。 12. 明治に「廃仏毀釈」により、多いところでは半数ものテラが打ち壊された。また、妻帯を許されたことで世俗化し、宗教としての力が弱められた。 13. 明治は、神社についても系列化をすすめ、伊勢神宮、天皇家を頂点とした国家神道の考えに従って格付けを行った。いま、「勅祭神社」などを標榜してありがたがっている熱田神宮、王子神社など、愚劣である。それまで系列化されたことのなかった、すなわち地域のアニミズム的信仰の象徴としての社や神社は「無格社」とされた。格外という位置づけを一方的にするなど、不敬もはなばたしい。まるで不可触賤民の創造のようではないか。明治の神殺しと梅原が言うのは、それらの神社や社にも存在意義がなくなっていた、まつろう民たちの不在化という地域の事情もあったのではいなか。 14. 天皇の名を借りた国家の神格化によって、近代国民国家としての統一と均質化を日本は果たした。教育勅語はまさしくその思想を書き記したものである。その背景には殺された神々、仏、宗教家たちが累々と重なっている。 15. 敗戦後の天皇の「人間宣言」により、神は再び死んだ。梅原は、仏教者たちの不道徳を嘆く。では、神社たちはどうなのだ? 16. 近代国民国家の形成に役立った国家神道をふたたび持ち出しても、現在わたしたちが直面している「近代の超克」ないし「近代の人間化」の課題には答えられないことは明白である。 17. 日本社会の重層性は、神殺しをくり返しながらも、実は、アニミズムを忘れず、風土神を忘れず、テラを忘れず、神社を忘れず、それぞれが生き延びている。同様に「国家神道」系も生き延びることだろう。しかし、彼らに民主主義社会を破壊させてはならない。共存することはできても、再びの独裁は、これまでの系列化の動きでも、なかったことなのだから。 18. 諸宗教の重層性と併存と、道徳の涵養とをどのように考えるかが問われている。 19. 諸宗教・信仰・信念の人びとに問わねばならない。あなたたちの教えは、ESDに適っているのかと。 20. そして、一人ひとりのわれわれは、「あなたは何によって人となったか」を問われるだろう。アボリジニのドリームタイムのように。 あなたの土着神を持て!
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| 2016-02-05 07:47
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