ニッポンの貧困 必要なのは「慈善」より「投資」
中川雅之、日経BP、2015
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あとがきに言うように、著者自身が貧困対策とは慈善なのではないか、倫理や善意で取り組むものと考えていたものが、貧困対策に取り組んでいる現場を取材する中で、社会的な投資としての貧困対策という考え方に変わったのだと言う。240
しかも、貧困対策にカネは必要だが、人も必要だという。それは「関係性」の貧困もまた、貧困の大きな問題だからだ。
人は人同士の関係性の中で暮らしている。必要なのはカネと人のつながりの両方だ。
「企業の合理化によって「安定雇用」が崩れ、核家族化の拡大で「家庭内の助け合い」が薄れ、財政の窮乏で「社会保障」も揺れている。貧困の防波堤だったこれらの機能が弱体化したことで、個人は孤立し、困窮しやすくなっている。」241
厚労省が公表している相対的貧困率は16.1%、年122万円に満たない人の割合である。1985年の12%から一貫して増加。23
2000万人。
にもかかわらず、目視調査によるホームレスの数は2015年、調査開始以来最小、全国で6541人である。「見えにくくなった貧困」がそこにある。23
貧困に陥る原因を著者は7つあげる。
1. 老後の資金不足
2. 非正規雇用
3. 精神疾患
4. 一人親
5. 親の介護
6. 教育費膨張
7. 事故、病気、倒産、リストラ
これらのリスクが自分だけではなく、親兄弟、配偶者、子供につきまとう。32
生活保護費は過去最高。161万8196世帯、4兆円近くにのぼる。
2009年に3兆円を突破したばかりなのに。1977年には1兆円。2000年に2兆円。1990年以来の増加率はうなぎ上り。
貧困者の頼る先が、NPOなどが運営する無料低額宿泊所、刑務所、貧困ビジネスなどだ。それらの取材を通して著者は貧困の背景に構造的な社会的課題があるのではないかと、取材をすすめることになった。
「教育ゲーム」と著者が呼ぶ貧困の原因へと。
教育投資が報われない。
日本はOECD加盟諸国28カ国中4番目に教育費の家計負担が高い。30%超である。親の所得が学歴を決める。東大生の親の7割が年収750万円以上。大学格差も所得格差と直結だ。54
奨学金を受ける学生も増えている。そして、結果自己破産になる例も。56
大学在籍者285万人。
ものづくりの工場や介護などの現場は人手不足。前者は日本人が来なくなったこと、後者は低賃金。国内の人材の生産性が低下している。66
そして、貧困を生み出すものの二つ目が女性と家族のあり方だ。
女性に対する企業社会の受け皿葉小さい。そのためにシングルマザーなどが貧困化しやすい。出産、子育てというエネルギーをかけることも求められる。地方から出てきた場合には親の協力も得られにくい。しかし、職は都会にしかない。
四章五章は改革編。
ドヤ街での取り組み、そして貧困への投資。「働きやすい職場」への取り組みなど。
行政は、負けている?
簡単な答えはない問題だが、冒頭に言った「人とカネ」の両方の車輪がなければ、前に進まないね。