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地球市民の人権教育 15歳からのレッスンプラン

地球市民の人権教育 15歳からのレッスンプラン
肥下彰男・阿久沢真理子編著、解放出版社、2015
2381冊目

世界人権宣言
障害者権利条約
子どもの権利条約
女性差別撤廃条約
国際人権規約/子どもの権利条約
人権差別撤廃条約
ILO条約
死刑廃止条約
難民条約

など人権に関連する諸条約について、それぞれの現場で活動している研究者(?)、教員による解説と参加型学習のプログラムとで構成されている。

現場団体、当事者団体などの協力は、著者リストから見る限りでは子どもの貧困と難民だけかな?

辛口のコメントを七つばかり。
1. 「はじめに」から「国際人権を学ぶ」などの全体的な導入の部分が「15歳から読める」気がしない。特に、15歳の人たちの人権そのものについての言葉が少ない。どこかあの総務省&文科省の政治教育の指導資料に似ている。「あなたが主体だよ」というメッセージがびんびん伝わってくる感じがない。
2. 「わたしの人権」を主張する練習やスキル・トレーニングが弱い。
3. 自分に返るワークが少ない。具体的には
・障害者差別について「あってはいけいな」と思うか「しかたがない」と思うかをカードで分類するワークがあるが、なぜ「しかたがない」と考えるのかの突き詰めがない。これがないとグループ討議はどこに行ってしまうのだろうか。「あってはならない」という正論と、でも現実はねという意見をどう深化させることができるのだろうか。
・ILO条約にからんで、職場で主張できることとその背景となる人権諸条約の条項が対応できるワークがあるが、「わたしの権利」が主張しにくいのはなぜという分析がない。労働者の権利についてのとてもおもしろいテキストを出されている著者だけにとても残念。
4. プログラムの起承転結の「転」であり「展」にもつながる展開が少ない。特に「データ」で現状を知るというのが少ない。基本的には「自分たちの身近な問題を振り返る」「国際的な条約や理念を知る」「現状や課題を知る」「行動する」という四展開でどの学びも構成できると思うのだが。

5. 子どもの権利条約 第30条に関連して「民族教育」の権利が抑えられていない。条項自体は紹介しているが、それがどのような日本社会における課題と結びついているかが紹介されていない。

6. 全体的に、日本社会の課題がなんであるのか、わかりにくい。クリティカルな見方が育つかどうか、よくわからない。

7. ビジョン共有のワークがない。序章の人権についての解説だけでは共有できたとは言えない。これらの人権諸条約が示す未来はどのような社会なのか。そして、そのビジョンにわたしは同意するのか。同意するのであれば、わたしはどんなアクションをとるべきか。あるいは日本社会は同意するのか。同意しないのであれば、日本社会はどのようなビジョンを描いているのか。コラム「刑罰観の変化」からでも発展的に考えられると思うのだけれど。

これを活用する人々が、著者ら以上に深めることができるのだろうか?

わたしが「欲しい」と思うテキストってどんなものか、あるいはこの本のタイトルで何を期待していたかは、少なくともわかってきた。
by eric-blog | 2015-10-23 16:14 | ■週5プロジェクト15
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