途上国の人々との話し方 国際協力メタファシリテーションの手法
和田信明・中田豊一 みずのわ出版、2010年 2351冊目 佐藤宏幸さんからご紹介いただいて、すでにブログでは紹介していますが、改めて、読んでみて、ぜひ、ご紹介しておきたいと思いました。 佐藤さんの詳細なノートは以下に紹介しています。 http://ericweblog.exblog.jp/21373008/ http://ericweblog.exblog.jp/21373009/ 中田さんは、シャプラニールのダッカ事務所でも働いた経験がある方。いろいろな開発協力の現場を体験し、そして和田さんの方法に出会い、二人のコラボで「メタファシリテーション」という技法を確立したという。 まずは、中田さんが、開発協力の現場で感じていた「違和感」、隔靴掻痒感、曇りガラスを語り、それが和田さんと出会うことで、変わったことが語られ、そして、和田さんが、徒手空拳飛び込んだ現場で、味わっていた「頭の中が真っ白」感と、偶然たどりついた「対話法」が中田さんと出会うことで昇華していったことを語る。 さらに、と構成はどんどん進化、深化していくのだけれど、これまでのところでいったん、「対話術」についてのまとめをしておこう。 何が、彼ら二人の共通の焦燥感だったのか。 現場が見えない。 何を質問したらいいのかわからない。 質問しても「地域の抱える課題」と「課題解決のためにして欲しい援助」しか出てこない。 援助が「自立」に向かうのではなく、「依存」に向かっているのではないか。 「住民参加型」プロジェクトと言いながら、ドナーの立場で仕切っていて、ドナーのためのプロジェクトになっているのではないか。 開発とは何か、貧困とは何か、誰に援助すべきなのか、そしてそれはなぜか? そんな疑問がぐるぐると頭を巡っているのに、何がいけないのか、わからない。 二人とも日本の援助団体ワーカーとして現場に行くのだが、現場の住民と直接関わっているのではなく、カウンターパートのNGOや地域団体が介在しての現場訪問になる。 そうすると、現場では対応はこんな感じだ。 何人かの人が来ている。地域ボスも来ている。 カウンターパートのワーカーと通訳がついている。 場所は地域の集会所のようなところである。 2時間ぐらいの会合が設定されている。 支援を感謝される。課題が共有される。 今後のプロジェクトが提案される。 なんだ、この大名行列による視察巡行は? 和田さんのNGOが弱小で資金力があまりなかったのが奏功したという。これもかなりの皮肉だね。 もしも、二人が「大名行列」が好きで、コズメティックに感謝される儀式に満足し、次なる支援金の行く先を探しているようなドナーであったなら、この本は生まれなかったからだ。 逆に、わたしは、そういう関係を続けることができなかったから、踏み込まなかったと言える。 ドナーによる大名視察あるいは専門家派遣に課題があることは、RRA,PRAなどの地域調査手法の工夫にも現れている。 しかし、二人は、専門家でもなかった。調査をする担当者ではなかったのだ。 地域の人々がいて、カウンターパートがいて、通訳がいて、ドナーがいる。 地域の人が本音を語ることなど、ありえない状況であることはすぐわかる。 地域で援助の窓口になっている人は、ほとんどカウンターパートの「共犯者」みたいなものだ。この二つの団体は阿吽の呼吸で結ばれている。 だ・か・ら、この二つの主体が共同正犯している「アイデア」や「課題」や「プロジェクト」が答えとして返ってくる。「M型コミュニケーションの罠」。自らがどう見ているかではなく、ドナーの側がどう見ているかを答えてしまう。 こんなコミュニケーションをくり返していると、彼らが支援している地域の課題が見えなくなってくる。というのも、彼らが支援している「貧困地域」は近代化という社会の流れゆえに、問題を抱えているのだ。 近代化が引き起こす問題は大きくは二つだ。 ○焼き畑放牧民であった社会が、近代化の中で定着を求められる。稲作などを始めて、人口が増加する。環境への負荷が高まる。 ○問題解決を「貨幣経済」の中ではからなければならない。収入向上プロジェクトなどが持ち込まれ、援助される。しかし、住民たちにはマネジメント能力がない。 伝統的に生きていた時、環境が彼らにリミットを教え、計画性もあたえてくれた。彼らは収入を計算したり、利益率を考えたりする必要はなかったのだ。 マクロの行政の方もこのことを意識していない。ミクロとマクロのミスマッチの中で、「地域」からのボトムアップや住民参加が求められる。そもそも彼らは何が求められているのか、なぜ資金提供があるのかすら、よくわかっていないのだ。 さて、そのような認識を共有した上で、では「メタファシリテーション」はどのように機能するのか。 1.プロジェクトの話から入らない。 2.地域を歩きながら、対話によって、住民が知っていることを引き出す。具体的な質問で。 3.地域情報を共有するとともに、セルフエスティームも高める。意見を言おうという自信をつける。 4.ファシリテーターはマネジメントやファイナンスの知識を元に、住民らが製品の売り先やコストなどをどう考えているか、具体的な質問で明らかにする。 5.自分たちが何を知っていて、何を知らないか、あるいは考えていないかを、住民自身が発見する。 ファシリテーションとは「発見」を助けることなのだ。 というようなまとめをした上で、引用しておこう。 現実を構成する3つの要素 事実、感情、観念・意見 33 Mのコミュニケーションの罠 Eコード 34 経験から学ぶ 経験を分析することで学ぶ 56 コミュニティの開発、経済的開発、環境の開発 142 主体、生産消費などコミュニティの再生産のための経済、資源と場をあたえてくれる環境 元々森があったら、「森を作る」という知識はない。時間軸と空間軸でコミュニティをみる。171 民主化と分権化の流れ。何を行政がやり、何をコミュニティがやるのか。 マイクロクレジットは ・グループで取り組む ・資源をグループで管理運営運用することが本来の機能。185 言語化するファシリテーターの役割 暗黙知と形式知 ムラの時間は数十年、数百年 201 マクロな危機意識(森林の焼失)をどのようにミクロの危機意識にできるか。209 近代化が作り出した貧困 貧困な人々は普通の人々、感覚は相対的 外のスタンダードを持ち込まない229 と、ここでPRAとメタファシリテーションとの違いを考えてみる。 メタファシリテーションも、「分析」している。空間的時間的にとらえることを助けている。 ただ、明確なツールを使わないだけだ。 だからこそ、職人芸的に、「対話」がなってしまう。 事実を問う、答えのある問いを出す「対話力」を、中田さんがずいぶんトレーニングしたように、トレーニングする必要が生まれる。 うーーん、PRAじゃあだめなのかなあ。ファシリテーターの役割が大きいだけに、喜んでしまっている印象がどうしても拭えない。
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| 2015-08-05 17:48
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