帰還兵はなぜ自殺するのか
ディヴィッド・フィンケル、亜紀書房、2015
2345冊目
原著: Thank you for your service, 2013
日本の自衛隊員が、これまでイラク支援のために送られた人数は1万人程度である。帰国した彼らに自殺者がいるが「多い」のかどうかは、防衛省は認めない。
アメリカでは、アフガニスタンとイラクに派遣された兵士は200万人。そのうち50万人がPTSD,TBIに苦しんでいるという。そして、毎年240人以上の帰還兵が自殺している。
それがこの本のタイトルになっているのだが、原著のタイトルは「ありがとう、祖国のための兵役」である。サービス学習というような表現にきな臭さを感じるのがこのあたりだ。
ありがとう、お国のために戦ってくれて。あなたの苦しみは、お国のためだったのだから。
わたしたちも、自衛隊員をそう言って、送り出すことになる。反戦運動をしているわたしも含めて、「わたしたち国民」は、だ。それ以外にどのように、軍隊を海外に派遣するというのだ?
この本に登場するのは五人の帰還兵とその家族である。380ページもの大著が、語る帰還兵のその後の物語と、帰還兵を苦しめる「あの時」の記憶が、日常を脅かす姿が描かれる。不合理に、唐突に、そして、いつもどこかにひそみ窺っているかのような記憶。
映画『アメリカン・スナイパー』にも出てくるが、一度目は戦闘ゲームのような高揚感の中で、二度目は殺し殺される現実の中で、そして、三度目の派兵で、恐怖と狂気がやってくる。1000日派兵が精神を病んで行く。3年、だ。ホント?100日の間違い?
日常に過激な暴力はない。にもかかわらず、家族の緊張が胸をしめつける。心に傷を負った人の間近で暮らし続けることの恐怖が、そこにある。「ケアしてあげなければ」と近づく心と、「傷が向けられる先」にい続ける恐怖とかせめぎあい続ける。
「戦争で、社会で、殺すことを学ぶことのコスト」
On Killing: The Psychological Cost of Learning to Kill in War and Society、1995
http://ericweblog.exblog.jp/21310053/
これから日本も、同じことを経験していくようになるだろう。
どんなに魅力的に描き出しても、日常を送るのは彼らだ。
http://spotlight-media.jp/article/171715255697455993
自信を取り戻したとしても、日常を取り戻すには、まだまだ先があるのだ。
どんなに「お国のためにありがとう」をくり返しても、殺されたのは人間なのだ。
「戦争と戦争の「痕あと」は続く。戦争と同じように永遠に続く。」376
この狂気、21世紀で止める方法はないのか? パンドラの希望は、日本なのに。
祈ります。信じます。日本の良心を。戦後70年、たいしたことはできなかったことを恥じながら。
天皇が、二度、軍隊を捨てた、この国で。