破壊する創造者 ウィルスがヒトを進化させた
フランク・ライアン、早川書房、2011
2323冊目
Virolution
『ウィルスX』でアメリスのカリフォルニアで突然起こった感染症のウィルスやエボラ、エイズとの戦いを追った著者が、病原菌としてのウィルスではないウィルスの働きについてまとめたもの。
ウィルスというのは細菌の1000分の一、細菌は人間の1000分の一のサイズ単位なので、100万分の一のサイズ。電子顕微鏡でなければ見ることができないもの。
自己複製作用のあるところにはどこにでも寄生、増殖することができる存在。
だから、遺伝子情報を混乱させ、エイズのような「免疫不全」症候群のような症状をヒトに引き起こす。
ヒトだけではない。
ウィルスは自己複製、細胞分裂のあるところにはどこにでも、すなわち生命活動のあるところにはどこにでもいるのだ。そして、他者の細胞を利用して自己増殖する。
この本のいちばん最初に紹介されているエビソード、エリシア・クロロティカというウミウシの物語だ。
植虫類と呼ばれるこのウミウシは、幼生から成体になった時に、一度特定の藻類にとりついて、食べる。葉緑体とその他を分けて、葉緑体は複合層という層にからだのすみずみまで配分する。そして、その後は一生、光合成で生きるのだ。
では、長寿なのか? というとそうではなく、卵を生んだ後はウィルスにやられて死んでしまう。そのウィルスは、成体になってからの感染ではなく、最初から入っているようなのだ。
そして、そのウィルスが、このウミウシが葉緑体を取り込んで、それでも葉緑体が機能するようになんらか手助けしてる可能性もあるという。
わたしたちが細胞核の中にミトコンドリアを取り込んでいるように、生き物は多様な機能をもつ生命体の複合系だとするならば、そこには生命と生命の壁を乗り越えさせる機序が必要であり、著者は、ウィルスこそがその橋渡しをしているのではないかと仮説している。
ウィルスXとこの本の両方を読んで、ウィルスという偏在する存在が、そもそもどんなものなのか、ぜんぜん知らないことに気づいた。