戦争における「人殺し」の心理学 デーヴ・グロスマン、ちくま学芸文庫、2004 2322冊目 原著のタイトルがわかりやすい。「戦争で、社会で、殺すことを学ぶことのコスト」 On Killing: The Psychological Cost of Learning to Kill in War and Society 1995 単行本は1997年、原書房から。 いま、全国で『ハーツアンドマインズ』のリバイバル上映が行われている。この本とこの映画はシンクロしている。 ベトナム戦争は、映画が描き出しているように「やつらを殺せ、殺せ、殺せ」「やつらはグークだ、コミーだ」「祖国に対する脅威から守るんだ」と殺人を訓練をされた兵隊たちによる戦争だった。戦争を遂行させたい側は、だんだん巧妙になっているのだ。 なぜか? 人間には人を殺したくないというストッパーが、心理的規制が働いているからだ。それは他の生き物でもそたなのだという。同種同士は、せいぜい「威嚇」するだけだ。それでなければ、メスをめぐって挑戦する若い雄は絶滅してしまう。 威嚇、逃避、闘争、降参 これらの戦術の中で、もっとも選ばれないのが「闘争」なのだという。 第二次世界大戦で、発砲した兵隊の割合は15%。それが95%にまで高まったのがベトナム戦争だったのだ。 殺すことの心理的なダメージと回避の傾向は、距離に比例する。海軍は心理的なプレッシャーが少ない。機械対機械のぶつかりあいでもあるし、相手も遠い。 距離に加えて、「集団」であることも、心理的規制をとりはずす。例えば大砲のように、チームでねらいを定めてぶっぱなす機械の場合、相手を直撃することはままある。実際、第二次世界大戦での殺戮で効果をあげたのはほとんど大砲だったのではないか言われている。 多くの場合、兵隊はついつい「威嚇」のために、相手の頭上高く撃ってしまうらしい。 実際に殺してしまうと、PTSDに悩まされることになる。 ベトナム戦争は、国内で厭戦気運が高まったため、帰国してから「戦勝パレード」もなく、返って「人殺し」とののしられることすらあったという。 そのために、帰還兵のPTSDは強くなった。 Tangled Memoryという本は、米国が「ベトナム戦争の悪夢」を塗り替えるために湾岸戦争をスマートに演出したのだという。 しかし、どのように訓練し、心理規制をとっぱらい、発砲できるようにしたところで、そのことで死ぬのも兵隊なのだ。 兵隊こそが、もっとも平和を望んでいると、著者は言う。 著者が心配しているのは、ベトナム戦争で発砲率を高めるのに使われた同じ道具、脱感作、条件づけ、訓練の体系的プロセスという方法が、いまの米国社会全般に、暴力や人殺しについて、社会に蔓延する情報やメディアの中で、作用しているのではないかという。 いまの「戦争法案」を見ていて、わたしは自衛隊に対して「人殺し」と叫ぶ日がくることを恐れている。 北海道を旅したときに、自衛隊のビジビリティの高さに驚いたのは、もう20年も前だろうか。 東日本大震災で東北を訪ねたとき、自衛隊はずいぶんと感謝され、受け入れられるようになっていた。 災害救助隊としての自衛隊と、国家の暴力装置としての自衛隊を、弁別して対応することなど、できるのだろうか。 想像してみる。 誰を殺したのであれば、「人殺し」と罵倒しないことをわたしは選択するのだろうか。 反戦運動は、平和運動は、その時、どうなっていくのだろうか。 戦場に行くことのない、議員たちが、ぬくぬくと議論をしている。 村上誠一郎さんが、インタビューで、「自分の選挙区の誰かが自衛隊員として死んだとき、その家族に対して、なんと言えるのか」と涙ながらに語っていた。 公民の教科書に自民党、公明党、維新の党などの選挙広報写真が紹介されているという。 歴史の教科書から「慰安婦」「沖縄戦での自決強制」などの記述が消えて行く。 記憶のポリティックスが動いている。 Record, report, remember わたしは忘れない。自分たちの記憶と、これまで知ってきたこと、学んできたことを塗り替えさせない。 そして、何度でも、記憶を再生し続ける。
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| 2015-06-05 10:47
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