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子どもたちに語るヨーロッパ史

子どもたちに語るヨーロッパ史
ジャック・ル・ゴフ、ちくま学芸文庫、2009
2508冊目

原著は、「子どもたちに語るヨーロッパ」2007と「子どもたちに語る中世」2006の二冊を、日本語版で合体させたもの。便利だ!

18世紀、産業革命が起こるまでの時代を中世と考える著者は、中世について、「暗黒時代」「遅れた時代」という見方を修整しようと語る。一方でヒロイックな、騎士たちや華やかな様式だけをもてはやす。なんだか、日本の「江戸時代Love」現象みたいだなあ。

中世こそが「ヨーロッパ」というまとまりを作り上げたのだという。スペインからイスラムを追い出し、ペロポネソス半島のはしっこのトルコ領をのぞいて、大きくはキリスト教が支配する諸国。そして、いま、ヨーロッパというアイデンティティを共有することができるエリアが確立したのが中世という期間に起こったことなのだ。

女性の権利も、キリスト教教会のもとで、拡大した。

封建時代を超えて、民主主義を育ててきた歴史。

『日本に絶望している人のための政治入門』で三浦瑠璃さんは、日本の政治を「地方名望家の影響力が大きい帝国議会以来の伝統」が続いていると指摘していますが、ヨーロッパの中世にも、同じ物を感じるなあ。ま、三浦さんは、そのことに対して批判的なわけでなく、そのような「ちゃんとした人」を野党もしっかり人材育成で掘り起こしなさいよと言っているだけなのですが。

後半に含められた「中世」もおもしろいのですが、それを踏まえて、第一部、歴史を読むというのがいい感じ。

著者は、統一ヨーロッパ支持者なのですが、それは「米国」「日本」のパワーに対抗するためなのだと。日本も独立して、名指されているのに驚きますが。

民族の移住ひとつとっても、フランス人が「大侵入」と呼ぶものが、ドイツ人は「民族大移動」と呼んでいる。052

確かにすすんだ製鉄技術によって、先住者たちを圧倒的な強さで支配したけれど、人口はそれほど多くなかった。混血がすすみ、言語の同化も起こった。「民族的純血」は本来存在しないもの。053

人間の交錯は発展の源泉。

にもかかわらず、今日ヨーロッパでは、パンとワイン、肉とビールという食習慣の違いが定着。054

十字軍は13世紀末に失敗として終わりましたが、それによって「軍事的拡張という危険な精神がめばえ、ムスリムには反動として生鮮という対抗感情をはぐくみました。」064 このあたりのさらに詳しいことは第二部、236-239参照。簡潔にして、わかりやすい武力に寄る聖地奪還と略奪侵攻。信仰と侵攻。

そして、フランス革命と革命政府によってもたらされた独裁。「自由、平等、博愛」をかかげながら、不寛容な政府へ。なぜ、こんなにもすばやく堕落できたのか?097

そして、オーストリア、プロイセン、ついでイギリス、オランダに対して宣戦布告。ヨーロッパ中に完勝していくことに。革命をもたらしたいという願望とフランス人の征服欲。

どっかで聞いた話だなあ。日本の明治時代から昭和にかけてまでの「アジアの解放」と「日本による支配」だね。

1848年、ナショナリズムの革命運動が炸裂。「諸国民の春」104
しかし、悪しきナショナリズムも登場。隣国への優越を宣言し、領土を併合しようとした。「急進的で好戦的なナショナリズムは、他国の独立と平和にとっての驚異になります。」104

そして、ヨーロッパのアジアへの進出。
アフリカの分断と、経済的搾取。教育による尊厳とアイデンティティの剥奪。111

さらには、過去を支配しようとした。
「史料批判、歴史叙述の方法、歴史を説明しようとする努力、学会と専門誌の創設などの蓄積があって、歴史が
19世紀の主要な関心事のひとつになりました。」114

「いかに未来を準備すべきかを知るためには、過去を知り、ヨーロッパのよき伝統を発展させ、ヨーロッパの人々のおかした過ちと罪をくり返さないようにしなければなりません。また、愛国主義的な神話をでっちあげて歴史を操作することも避けねばなりません。歴史は担うべき重荷でも、暴力を政党かする危険な助言者でもありません。歴史は時代に真理をもたらし、進歩に役立つものであるべきなのです。」115

「軍隊、とくに警察が、血に染まった独裁者とその協力者に命じられるままにその手先となり、殺人と人権侵害を行ったのです。」128

「記憶しなければならない」

「ヨーロッパはもはや世界を支配していない」

ひとつの大きな統一ヨーロッパを形成すること。
そうすれば、ヨーロッパは、アメリカ合衆国、日本、やがて大国になるであろう国々と同じくらい強くなれます。

ヨーロッパは自らを閉じてはなりません。
アメリカ化、日本化に呑み込まれてはならない。136
]
人々はヨーロッパに平和を望んでいるのです。そして、最後の大事な切り札は、ヨーロッパにはすでに政治的独裁制が存在しないことです。136

すべての国が民主制であり、法と市民の権利を尊重し、いかなる拘束もなく普通選挙によって選ばれた議会をもっています。
彼らを抑圧してきたものを完全に消滅させなければならないことを・・・気づいています。
by eric-blog | 2015-05-19 09:09 | ■週5プロジェクト15
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