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次代に伝えたいこと 歴史の語り部 李香蘭の半生

次代に伝えたいこと 歴史の語り部 李香蘭の半生
山口淑子、天理教同友社、1997
2346冊目

「いくら口先で謝罪しても、侵略戦争を美化しようとする動きがある限り、日本を信頼することはできない」

あとがきに、著者が1995年に北京・天津を訪れ、近現代史をどのように教えているかを知るために交流した師範学校の学生の言葉として紹介している。

戦争中、「李香蘭」として満映などが制作した映画に出演。夜来香などのヒット曲もうたった「日本の国策に協力している中国人」と認識された20才の頃。

撫順に生まれ、中国語を学ぶために単身北京に進学。抗日運動の激しさの中に、自分が日本人であるということを明言できないまま、若い人達のデモや集会に身を置いていたこと。

自分では、自分のことを「中国人」と名乗ったことはないのだと。

李香蘭として帝劇でリサイタルを開いた時の「七回り半」の群衆の伝説。それに対しても、著者は、本人の人気ではなく、時代のニーズとして娯楽を求める気持ちが強く働いたものなのだろうと、俯瞰する。

主体的に動く、自分の人気を喜ぶ・求める、というような表現が皆無で、どこか俯瞰したような記述が中国時代、すなわち戦中については続く。

そして、敗戦。日本人収容所に入れられ、軍事裁判を受ける。容疑は漢奸とスパイ。8月15日から半年、日本人であるということを証明し、やっと引き揚げ船に乗って中国を離れる。

このブックレットでは戦後の彼女の人生については書かれていないが、南京虐殺の被害者のこと、元従軍慰安婦のことについて、そして、故郷撫順近くの「平長山殉難同胞遺骨館」におさめられた1000体もの遺骨のこと。

特に従軍慰安婦の問題については「国の謝罪と保障がよい」という意見も紹介しつつ、「アジア女性基金」の活動を推進し、当事者と会ったときのことも、語っている。

戦争とは殺すか殺されるか。
戦争とは掠奪と強姦。

最前線にいた兵士のことばだ。

どんなにその目的に「国民を守る」、「国益のために」ときれいごとを並べても、どんなに軍事衝突を避ける努力を外交的にしようとも、情報戦に長けようとも、戦闘に参加せず、無人戦闘機を使う側に居続けられても、
軍隊とは、殺し、殺される行為を行う集団なのだ。

自衛という、人間に認められる正当防衛の最終ラインを、踏み越えた「自衛隊」は、いつその名称を変更するのだろうか? あるいは、米国の省庁が戦争省から国防省に変わったように、米国軍が「国防軍」とでも名前を変えるのだろうか?

軍事行動は始まってしまうと、ほんの少しのきっかけでも、どんどん激化していってしまう。そうなる前に、強い歯止めが必要だ。

外交、国際交流、国際理解、国際協力が、そのような歯止めになることは間違いない。

そして、1990年代にこのような思いを抱いていた戦争体験者が存在していた事実を消すことはできない。

相互理解のためのていねいさをなくす時、教育は崩壊する。

山口淑子さん、1920年2月12日 - 2014年9月7日。伝えたかったことを、伝えることで、お悔やみにしたいと思います。
by eric-blog | 2014-11-01 07:57 | ■週5プロジェクト14
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