和解のために 教科書・慰安婦・靖国・独島
朴裕河、平凡社ライブラリー、2011 2340冊目 For Reconciliation, 2005 オリジナルは韓国語。単行本は2006年、平凡社より。 なぜ、『隠されたジェンダー』をまず紹介したのか。二元論の外に自分を置く姿勢が共通だからだ。 朴さんは言う。「韓国のなかでも日本のなかでも、右でも左でもない「あいだ」に立たねばならなくなった」と。 第三のカテゴリー、Xピープルによってしか、道は開けない。ジェンダー・アクティビストのように、日韓左右フェミカテゴリードしきってしまった現状に対して、脱カテゴリー・アクティビスト出よ。 ライブラリー版まえがきは「大震災のあとに、未来を考える」も掲載。 震災後、韓国で募金の気運が高まったが、3月末に教科書が「竹島は日本固有の領土である」という記述が出ていることがわかったとたん、冷えきってしまったのだという。18 日韓関係のねじれというのは、「日本のリベラルが「戦後補償」を進めようとすると右派が反発し、その日本の右派の言動が韓国を刺激し、その韓国に連帯しようとする日本のリベラルに、さらに日本の右派が「反日」と非難する、そうした構造、不信と怒りのスパイラル」15 韓国のナショナリズムも日本のナショナリズムも、もはやその内部において決して均一ではなく、激しい葛藤を孕んでいるのである。15 冷戦終焉以降本格化した韓国内部の分裂と葛藤も、植民地時代における「日本に対する姿勢」(親日・反日)と無関係ではなく、そういう意味でも日韓問題は「左右」問題でもある。15 支配され差別されて、「朝鮮人」であることに「誇り」より「恥」の感情を持つことを強いられた経験こそが、怒りに支えられた韓国のナショナリズムを形づくったのである。 「つくる会」のめざすもの。「従軍慰安婦の記述の削除」。 彼らの不満の噴出のきっかけは、1993年の細川首相の「侵略戦争」という発言。30 公式的な謝罪発言に対する保守勢力の反発。 過去の戦争を、あくまでもアジア解放のための戦争だったとする日本の保守右派にしてみれば、戦争に対する批判は、国家の命令にしたがい命を捧げて戦った祖先の「正義感」と「犠牲的精神」を辱めること 教科書問題というものは、韓国が考えてきたように、「昔から、そして常に」「反省しない」日本が拡大した現象ではない。むしろ反対に、敗戦後ただちにはじまり、1990年代以降「慰安婦」問題を契機としていっそう明らかになった、いわば「反省する日本」が問題視された事件だった。33 「反省する日本」と「反省的な教科書」が戦後日本の歴史教育の現場で大きな力をもっていたことは、韓国国民の認識の外にあった。33 しかも、反省的な教科書は、21世紀に始まったことではない。戦後すぐに始まっているのだ。 「愛国心」という言葉がタブー視されてきたことも、韓国に知られることはなかった。39 1955年、55年体制の始まり。反省的な視点をもつ教科書を批判する作業が始まる。 1970年の家永裁判で教科書検定が不当とする判決が出ると、検定は柔軟になり、反省的な視点がふたたび目立つようになった。41 1982年、「侵略」を「進出」に書き換えるという問題が教科書問題を外交問題にまでした。「近隣諸国条項」が検定規則に盛り込まれ、戦前の日本の加害性を明らかにする記述がさらに増えていく。41 1992年、宮沢喜一首相、慰安婦について公式に謝罪。1997年度には中学校教科書のすべてに「慰安婦」に言及する記述が。42 戦後日本が平和主義的だったという事実は、韓国の認識の外にある。42 「謝罪する日本」も明確に認識されることもなかった。43 「つくる会」の不満は、東京裁判が、連合国の加害行為は言及しないということにある。46 原爆まで使用しなくても、日本の降伏は必至であった。「過大な殺傷」に対する不満を、たんに度のすぎた被害者意識とばかりは決めつけていられない。48 2001年に「つくる会」の教科書が検定を通過したとき、日本政府は「つくる会」との距離を強調した。50 しかし、このことも韓国では認識されなかった。 そして、2001年の韓国からの教科書修正要求。25項目に対して5項目とか、入れられなかった。韓国側の要求が「過激」であったことについての反省もない。日本政府の対応の問題についてのふりかえりもない。56 「誇り」への執着は、「羞恥」にまみれた記憶を隠蔽しようとする。72 近代以降、国民国家に包摂される人々にまったく同じ内容の教育をほどこすことになった。72 身分制社会では不可能だった「誰しもがともに共有しうる記憶」として可能になった。73 「誇り」への執着はも、他者の被害に対する想像力の欠如を招くだろう。73 ともに相手の声を根底から封じ込めようとする自己中心的な思考こそ、韓日間の隔たりをひろげていく主犯なのである。73 自国の歴史を「誇り」の対象と考えるかわりに、「責任」について考える教科書が必要だ。75 男性が女性を「知る」ことが、・・・女性に対する「支配」者となっていった。121 韓国の中の階級格差が、誰が「慰安婦になるか」に現れている。 民族というものさしで加害者と被害者を画一的に区分することは、そのものさしに含まれない、また別の被害者と加害者を隠蔽する。134 韓国内の責任と差別の存在も「みる」べきだと著者は指摘する。 はじめから「売春」婦だった女性はいない。・・・強姦であれ、拉致であれ。人身売買であれ、ある日「まわりの人の」暴力によって春をひさぐことになったという意味では、「慰安婦」もまた強制性労働者といわざるをえない。問題とされるべきは・・・売春に対する差別的視線なのである。」137 韓国、日本、どちらの社会に対しても是々非々の論点を提示しつつ、相互理解をすすめること、和解の道を探り続けることを提起している本である。 解説「あえて火中の栗を拾う」と題して上野千鶴子さんが書いている。 一つは「国民基金」について 「国家による公式謝罪と補償」を唯一の解として、国家対国家、民族対民族の対立の構図がつくられたのは、一部は韓国内の女性団体のナショナリズムにも原因がある。だが、日本の「両親的」な女性団体は、これを指摘することに躊躇し、かえって全面的に同調することを選んだ。」310 「韓国と日本は「慰安婦」問題に対する立場が違う。・・・同調と共闘は違う。連携と共闘は、異なる立場をつなぐことで可能になるはずだ」311 もう一点は小泉首相による談話と靖国参拝。「植民地支配と侵略を行い・・・戦争への道を歩むことがあってはならない・・・・」 著者の解釈は善意にすぎることを指摘しつつ、「一方で「平和を願う」と言いながら、他方でA級戦犯を合祀した靖国に公人として参拝する・・・矛盾である。」と。312 「和解があるとすれば、それは被害者の側の赦しから始まる・・・それを言える特権は「被害者」の側にしかない」 「被害者の示すべき度量と、加害者の身につけるべき慎みが出会うとき、はじめて和解は可能になるはずである。」314 ライブラリー版の解説「和解のために、降りる」星野智幸さんは、著者の「なぜ」の追究が幾層のレベルにも及んでいることを言う。起こった事実、それぞれの加工、対立を続けようとする姿勢など。 そして徹底して双方の言い分を聞く。そのことで、「対立がなりたっていない」ことを示す。319 歴史と記憶をめぐる解釈の問題。実際の事実、実際の記憶以上にそれを記述するさいのイデオロギー性が対立をもたらしているからだ。320 「不和が不信を生むのではなく、不信が不和を生み出すのである。」288 不信を本質化しようとする韓国内のナショナリストたちの言葉の選び方には厳しい。320
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