民主政の不満 公共哲学を求めるアメリカ 下 公民性の政治経済
マイケル・J・サンデル、勁草書房、2011 2305冊目 上下巻だが、以下は下巻からの引用。 『リベラリズムと正義の限界』は、索引がすばらしい。英語がついている。 そして、小林正弥さんおよび千葉大学人文社会科学研究科公共哲学センターが訳されたこの下巻では、訳語についての解説がすばらしい! レーガン政権といまの自民党政権はどこか似ていると思っていたのだけれど、サンデルは第9章において「リバタリアニズムと共同的保守主義」の二つの潮流を一つの声にまとめあげたと指摘する。234 レーガンもまた福祉国家が個人の自由を侵害すると考え、公的扶助は貧困層にとっての権利や資格だという考え方を拒絶した。236 “手続き的共和国が提供するものよりも身近で人間的な規模において営まれる、より大きな意味を共有する生活に対するアメリカ人の憧れに一体化できる”という彼の能力。237 「私たちの運命をもう一度、つかみとり、自分たちの手の中に取り戻す」237 まるで、いまの自民党政権のレトリックを読んでいるようだ! まだまだ全部は読み切れていないのだけれど、「結論」245-より 「自己統治への希望があるとすれば、それは主権の再移転(relocating sovereignty)にではなく主権の分散(dispersing)にある。主権国家に対する最も有望な代替案は、人類の連帯に基づく単一の世界共同体ではなく、共同体や政治体-国家より大きいものもあれば小さいものもある—の多重化であり、そこにおいて主権は分散されるのである。国民国家が消滅する必要はなく、主権の唯一の保持体としての、あるいは最も主要な政治的忠誠の対象としての要求を委譲すればよい。異なる政治的結合体(association)が異なる生の領域を統治し、私たちのアイデンティティの多様な側面に関与する。主権を上位と下位の双方に分散させる体制だけが、市民の自省的な忠誠を促すことを望むために公共生活に不可欠な差異化をもたらし、グローバルな経済の力に大綱するのに必要な力を結集させることができるのである。280 共和主義的政治における人格形成的な側面は、公共空間を必要とする。そこに市民が共に集まることによって、自分たちの状況を解釈できるようになり、連帯と公民的参与が涵養される。284 多重に位置づけられた自己(multiply-situated selves)として思考し、行動し得る市民である。現代に特有な公民的美徳は次のようなものである。それは、時には重なり合い、また時には対立する複数の要求をうまく調整していく能力であり、多重の忠誠がもたらす緊張関係の中で生きる能力である。しかし、この能力を維持するのは難しい。なぜなら人格内部の多元性よりも、人格間の多元性を生きる方が容易であるからだ。285 公民的な美徳が、現代の自己における複合的なアイデンティティの統一性を維持することにあるならば、そこには二種類の堕落の危険性が存在する。第一に、原理主義への傾向がある。すなわち、分割された主権及び多重に負荷を負う自己(multiply-encumbered selves)に付きまとう両義性に耐えきれない人々が引き起こす反応である。286 両義性を消滅させ、境界を強化し、内部と外部の区別を厳密にし、そしてまさしく「主権を再興する」ために「私たちの文化を回復し、祖国を取り戻す」政治を望む人々からの反動が引き起こされるだろう。286 多重に負荷を負う市民が陥りやすい第二の堕落は、無定型で、うつろいやすく、物語を欠いた自己に陥る傾向である。そのような自己は、多様なアイデンティティの要素をまとめ、一貫性ある全体を構成することができない。 物語がなくなれば、現在と過去の間の連続性もなくなるため、あらゆる責任は消滅し、自己統治を共に実践する可能性も消えるからである。286 人間が物語的存在である以上、物語を喪失する傾向に対して私たちは抵抗しなければならない。しかし、この反抗が健全な形態をとる保証はない。物語に飢えるあまり、・・・空虚な茶番に引き寄せられる。・・・原理主義に救いを求める。現代における希望は、これらに代わって、私たちの置かれている状況を理解し、民主政に必要な公民的生活を回復するために、信念と自制を奮い起こすことができる人々にかかっている。286
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