日本人はなぜ嘘つきになったのか?
和田秀樹、青春出版社、2008 2039冊目 レベル1 自己防衛型 子どものウソの発達の第一段階。 レベル2 秘密型 能動的に行なった「悪いこと」を角田すめにつくウソ。思春期。 レベル3 体面保持型 見栄をはる。はったり。大人に多い。 レベル4 ウソも方便型 レベル5 義理人情型 レベル6 積極型 たいていのウソは、いくつかが絡み合っている。 いずれにしろ、人間がウソをつくのは、何らかの動機があるからである。ゼロから1へのハードルより、1から2へのハードルの方が低い。39 ・ 集団心理によって判断力が低下する リスキー・シフト ・ 権威者はウソをつく(これについては『人はなぜ御用学者になるのか?』も参照) 第二章「嘘バッシングに酔う単純思考」 シロかクロかの二分割思考がウソを助長する 終章 嘘をつかない技術と疑う力 疑う力は「世の中に確かなものはない」と考えることによって養われる。 シロでなければクロと決めつけ、徹底的に叩きのめすようないまの風潮は、疑う力を奪うだけである。 さて、安倍首相である。 いま、安倍首相は、菅直人元首相から「海水注入を1時間はやく止めた」責任を問う発言に対して名誉毀損で訴えられているのだが、安倍氏はウソつきなのだろうか? http://iwj.co.jp/wj/open/archives/91257 山田正彦元参議院議員は「TPP交渉はまだまだこれから」と政府交渉団がウソをついていると、指摘する。鶴岡公二首席交渉官は嘘つきなのか? http://iwj.co.jp/wj/open/archives/100839 岩上安身さんは、オリンピック招致活動の中で安倍首相が福島第一原発について言ったことを「4つの嘘」とまとめている。 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/100898 政治家のつくウソは、例えば糸井重里が、映画のキャッチコピーについて「未来へのパンくず」と言ったような効果がある。政治家の言ったことに向かって、社会的資源が投入されていくということです。(わたしたちの税金ということですが。) プロパガンダというのは、「特定の思想・世論・意識・行動へ誘導する意図を持った宣伝行為」です。 安倍首相は「嘘」を言ったのではなく、「宣伝行為」を行なったと考えるべきです。動機づけはあきらかです。 そして、その宣伝行為は功を奏し、オリンピックは2020年に東京で開催されることになりました。 つまりは2020年までに、福島第一原発の汚染水問題が解決すれば、ウソではなくなる。原発事故という長い時間のかかることを7年間で成し遂げることができたら、それは、「事態は制御されており」「さらに、完全に問題のないものにするために、抜本解決に向けたプログラムを、私が責任をもって決定し、すでに着手をしております。実行していく、それをお約束いたします」 と言ったことは嘘ではなかったということになります。これまでの2年半の歩みはなんだったのだと、言いたくなりますが。 この場合、このプロパガンダの賞味期限は2020年ということになります。 すでに、東電は9月9日の定例記者会見で、「事態は制御のもとにある」ということは言えないと、吐露しています。しかし、素人のわたしが考えれば、「汚染水対策」が7年経っても決着しないのであれば、廃炉作業など、どうなることかと思います。汚染水対策ぐらいであれば、7年でなんとかなっていて欲しいものです。その先、あるいは並行して、燃料棒の取り出しやら高濃度汚染物質の処理やら廃炉作業やらあるのですから。 もしも、このプロパガンダが「汚染水対策」だけのことだったのだとなれば、「ウソ」じゃなかったことになります。 アベノミクス「三本の矢」という対策について、甘利経済産業大臣が記者会見で言いました。「われわれは成功する。なぜなら、成功するまで、対策を取り続けるからだ」と。 政治家は、「基準」を変える力があるのです。指標を変えてしまえば、雇用率アップも可能なのです。そして、2014年の「バラマキ復活予算」。もう「改革なしで成長なし」なんて戯言、言わせない! 改革なしで成長させるのだ!の図です。 浜規子さんは、「成熟経済にある日本社会では、高度成長期と同じ対策ではなく、再配分の正義を求める政策を」と言います。しかし、政府の対策は、「大盤振る舞いによるトリクルダウン効果ねらい以外の何ものでもありません。かくして、「政治家主導」への回帰はなされたのです。 経済政策についてのプロパガンダの賞味期限は、3年後の国政選挙でしょう。成熟社会日本の疲弊がすすんでいるのか、それともよりよく生き延びているのか。 オリンピックでは「国民の熱狂」を味方につけることに成功しました。集団心理によって「ウソ」が見破れなくしたのです。 世界に向かっての安倍首相のパフォーマンスに涙した人も多いのではないでしょうか。プロパガンダは、靡いてくれる人々あってのものなのですから。それらの人の中には、その巧妙さに舌をまいていた人もいるはずです。 それでも、総体としては、安倍氏のプロパガンダを支持したのです。 その結果、部分的には「ウソ」を見破り、わかっていた人も指摘できなくなります。「おまえも、熱狂していたではないか」と言われるからです。「ま、いいか、これくらいなら」という判断が、「ウソ」を拡大します。 安倍氏のパフォーマンスの背景にいる電通は、7割のメディアを支配していると言われます。これからも、「オリンピック礼讃」番組や記事は続くことでしょう。それは確実です。「子どもと動物には勝てない」に加えて、スポーツが付け加わるのです。 なぜ勝てないか。 佐藤真海さんのプレゼンにそのすべてが詰まっている。 http://sankei.jp.msn.com/life/news/130909/trd13090921320004-n1.htm スポーツの力 一致団結する力を、スポーツ選手によって構成された「招致応援団」そのものが見せつけました。 今回の安倍首相のプレゼンテーションで切り捨てられた人々がいます。 ◯原発事故以降の健康被害にさらされている人々 ◯試験操業の停止を余儀なくされた漁協の人々 ◯原発事故から自主避難した人々、東京からさらに避難した人々 いずれにせよ、日本人1億2000万人の中の数十万人のことです。なんとかできないはずはないと、安倍首相は思っているに違いありません。国民の25%の支持で政権についたこと、その支持がどこから来ているのか、政権についている人々は熟知しているはずです。 問題があるなら、一致団結して解決しようよ。安倍さんの論理ではこうです。「わたしはビジョンを出した。そちらに向けて政策誘導できなかったとしたら、それはみんなの責任」だと。あの人は、自民党の憲法素案も読んでいないほどの方ですからねぇ。体調管理とパフォーマンスに、かなりエネルギーを費やしているのだと思います。 民主党鳩山政権の「最低でも県外(普天間基地)」というビジョンは政権内部および官僚機構によってネグレクトされました。誰が政権を取っても、ネグレクトが続くのか、それとも、一丁この辺りで、成功事例を出しておくのか。 官僚と政治家の駆け引きが続いていると思います。 2006年に政治献金がらみの問題が取り上げられそうになった時、安倍氏は体調不良を起こしました。ご本人そのものが、賞味期限を決定する要因ともなりそうです。 わたしのところには、トリクルダウン以外ではなんの恩恵もなさそうだけれど、こんな変化がおきたらいいなと思います。 ◯スポーツ指導のあり方が問い直される ◯プロパガンダに流されず、是々非々で議論できる土壌が育つ 別項でも書きましたが、「オリンピック2020を検証する」授業が、ぜひ、中等教育段階で広がることを期待します。それが「考える力」に他ならないのですから。 政治家は「ウソ」なのではなく、大衆動員のためのパフォーマンスをしているにすぎません。それを「ウソ」だと、シロクロつける二分割思考で批判しても、「ウソを見破る力」はつかないのです。 パンとサーカス、ローマ帝国の時代から、政治家が旨とすべきことは、不変なのです。
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| 2013-09-10 14:35
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