「コミュニケーション能力がない」と悩むまえに 生きづらさを考える
貴戸理恵、岩波ブックレット、2011 2007冊目 『アイデアは地球を救う』でも、「◯◯力」満載でしたが、この著者は、「◯◯力」という言い方は、「個人の能力」を強調する言い方だということに、危惧の念を表しています。 第一に、「◯◯力」は一定の基準によって測定することが困難な力である。 第二に、能力は個人が持つものだが、「◯◯力」は場や相手によるところが大きい。 他者や場との関係によって変わってくるはずのものを、個人の中に固定的に措定することを「関係性の個人化」と呼んでおこう。2-3 実際には個人の裁量ではどうにもできないかもしれないものを、個人の問題にしてしまう。4 もちろん、人間力のある人はいる。しかし、それが低い人に対して「◯◯力」を身につけろとは言えないといようなものなのではないか。 若者の貧困は「社会的要因」という認識が広がると同時に、これらの「◯◯力」が出てきている。 「社会はすぐには変わらない。有利に生きるためには自分を変えた方が早い」という「絶望」 社会の問題を認識しながら、結局、個人の「◯◯力」の欠如に帰結してしまう。 関係性は「個人」と「社会」のあいだに生じるものであるため、社会要因論と個人要因論が、併存してしまう。 どのような文脈で 誰の いかなる振る舞いが コミュニケーションの途絶を招いているのか 「社会・経済的な生きづらさ」と「関係的な生きづらさ」。関係性の失調。 自己責任にも社会要因にも還元されない、個人と他者や集団との「あいだ」に生じる失調。10 ここで不登校の背景についての分析。 1974年というのが、長期欠席率が最低の年で、つまり、わたしの世代は、貧困による長期欠席がだんだんなくなり、99%の子供たちが学校へ通っていた時代。その後、ERICで、高等学校に授業に行くようになって、1/3ぐらいが順番に欠席する現状に驚いた。授業の流れや前やったことが前提にできないことに、戸惑った覚えがあります。そう、欠席率は1974年を境に、どんどん増えていたのです。 「理由なく学校に行かない子ども」の登場が、「不登校」という問題の始まり。 「明治以来、学校は「教育を通じた立身出世」という価値を人々に示すことで、社会を近代化させるための装置であったわけですが、近代化の達成とともに、そうした道具的意味は見失われ、「学校に行くために学校に行く」という自己目的化した場へと転換していった」19-20 不登校が問題だという枠組みから「不登校」は個人の選択へと、捉え方が変わっていく。 しかし、一方で、地域共同体の吸いたいのせいで、「家族と学校以外に社会化の場が存在しない」という状況を生み出している。 学校と仕事も自動的に接続するものではなくなっている。仕事の重みが増している。 「学校は人が他者や集団につながる大きな契機であり、「他者や集団につながる」ということは、すべての人がスムーズになしうることではないのです。」24 「社会性」とは、「他者が自分を見るように自己を見る」こと。(ミード) 「自分自身の自我と他者たちの自我とのあいだに確固不動の境界線なんか引けはしない。人間は、かれの社会集団の他のメンバーの自我とのつながりがあってはじめて、自我を所有できる。」(Mead, 1934、邦訳、174-175) 「ひきこもり経験者へのインタビューを軸とした研究では、他者のまなざしを自己の内部に取り込み、自己否定をする規範意識の強さが多く指摘されています。(井出2007、石川2007) 『ひきこもりの社会学』 『ひきこもりのゴール』 「関係的な生きづらさ」を抱える人は、決して「逸脱した人」ではない。彼らのは「学校に行く人「働いて自活する人」と地続きの存在です。28 本人の主観的現実の厳しさは周囲には届かず、周囲からの否定的評価に本人は身をすくめます。29 「生きづらさ」をめぐる6つの語り ・ キャリアにかかわって、「市場」を重視した立場からの語り「選んだ以上は自分の責任」自己責任論 ・ 病、障がい、老い、性など特殊化された個体性にかかわって、市場を重視した立場からの語り「弱者は負けてもしょうがない」優生学的立場 ・ キャリアにかかわって、「社会」を重視する立場からの語り「選ぶように追い込む社会の責任」社会要因論的立場 「◯◯力」の中に出身家庭の階層がある、「個人的なもの」と「社会的なもの」との相互浸透性。 ・ 病、障がい、老い、性など特殊化された個体性にかかわって、「社会」を重視する立場からの語り「弱さは社会で負担しよう」社会保障的立場 ・ 病、障がい、老い、性など特殊化された個体性にかかわって、「当事者」を重視した語り「自分の弱さを受け入れよう」無力さの承認の立場 そして、存在しない6つめの立場。「キャリアにかかわって」「当事者」に重点を置く立場。「自分で選んだ、でも社会に追い込まれた」。38 それが「関係的な生きづらさ」の理解につながる。 「貧困でもなく、「病気」でもなく、「個人の意志」でもない。 その理解しにくさを支えているのが「神話」への囚われだと、著者は指摘します。 ◯「自己選択・自己責任」という神話 近代的自我とは、成人の、健常者の、異性愛の、男性という「普遍的な人間」のこと。 子ども・老人、障がい者、病者、同性愛者、女性などは、自己選択の主体とはみなされていませんでした。41 そもそも人は多くのことを選択できる存在ではない。41 神話が「聞く側」の理解を妨げている。 さらには「聞く側」は「聞けない」のではなく「聞きたくない」。 正社員と非正社員は同じ構造のなかでひずみを抱えている。44 「仕事をしない人」に対する憎悪すら存在する。 「競争から降りる」というオプションは、競争に勝ち続けている者の忍耐を侮辱する。45 「◯◯力」という言い方で、問題を押し付けてしまう。 関係性の問題は、わたしたち、彼ら、その間の調整という三つの立場を明示する。 「関係性の個人化」は彼らに責任を押し付ける考え方。 「社会から撤退する」という道だけではなく、「関係をつくり変えて参加する」という道がありえる。 しかし、それは効率が悪い。「十分にコストをかけられないゆとりのなさ」の問題。 「選べない出会い」としてとらえる。 「安定的な男性労働」の切り崩し 不安定雇用の男性の増加。未婚割合が高い。 女性労働の非正規化。 大学で働く著者は、「専任」と「非常勤」の間の格差について、専任の側も考えなくてはならないのではないかと、問題提起していますが、はてさて、どうできるのでしょうか。「選抜」に向かって、せめぎあうのが、常態になっている研究者の世界ですものねぇ。 それでも、「当事者」であることは続いていくと、続けていきたいと。 「障がい者」がいるのではなく、「障がいのある社会があるのだ」という視点の転換にも通じる問題提起があるのだけれど、それほど勇ましいようにも聞こえず、衝撃でもないのは、やはり、圧倒的な多数が「適応」しているからなのだろうなあ。適応可能性の高低の違いなんだろうねぇ。
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| 2013-07-03 11:16
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