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旅する対話 ディアスポラ・戦争・再生

旅する対話 ディアスポラ・戦争・再生
姜信子、ザーラ・イマーエワ、春風社、2013
1944冊目

ディアスポラ故郷喪失者と、この本では訳されている。これまで、わたしは国境離散民という訳に親しんできた。
種をまきちらす植物のことを表すギリシア語が語源だという。

高麗人コリアンが、ソ連時代、連行されていった先、そして、チェチェン人が、ソ連時代に連行されていった先、カザフスタン。その地に、人々の物語を探して、そして追体験しに、2人の表現者、映像作家と作家が旅した物語。

400年にわたるチェチェン人のロシアとの戦いの歴史。いまも終わらない弾圧。

姜さんは言う。206
「私にできること? チェチェン戦争に関して?・・・・
 私は、もう、それは、自分自身の言葉と行動で費用減していくしかないと思う。ただ、言葉で戦争反対というのは簡単だし、戦争反対のプラカードを持って歩くのも一番わかりやすいけれども、それが自分の日常の外の特別な行動ではなくて、自分の生活自体が戦争とは相容れない価値観で貫かれているということ、さっき私が話したような、ひとりの人間としての、人と人とが互いに尊重しあうようなモラルの上に自分の生活を形作っていくこと、そこからしか始まらないのでは・・・。

生活の中から自分のふだんの行動を変えていく、変わらざるを得なくなってくる。

心に突き刺さっているような痛みとか悲しみって、心の奥底までは彼女たちと同じようには感じとれない。・・でも、そこで黙り込んでしまったら、もう先には進めない。

その歯痒さを噛み締めながらも、未来の希望について語る言葉を、一緒に作れるんじゃないか」208

姜さんは、韓国籍の在日三世、1961年生まれ。ザーラも同い年。伝統文化が忘れられつつある時を生きているザーラとは、「伝統」や「文化」についてもつ感覚がずれているという。178

「というのも、「文化」や「伝統」が、私たちのアイデンティティとも深く結びついた大切なものであるだけに、逆に、何らかの目的のために、純粋であることを強調して排他的な愛国心や偏狭な民族意識をかきたてようとする者たちにとっては、これほど利用しやすい道具もないから。
 ザーラと同じように植民地時代に自分自身の「伝統」と「文化」の消滅の危機のまっ只中に生きた私の祖父母たちの世代から代を重ねて、今や韓国という国にもどこにも根を持たず、まじりものの文化を生きることとなった私のような人間にとって、「伝統」や「文化」が排他的な愛国心と結びつけられて語られる状況ほど危機感を抱かせるものはないのね。その危機感というのは、戦争の予感が漂いはじめている今の日本に対する危機感でもあるのだけど。いったん、戦争が始まってしまえば、それこそ、ザーラが語るような悲劇に私たちはどうしようもなく巻き込まれていってしまう。」179

独自性や固有性よりも、混血性が気になってしまう、と。
by eric-blog | 2013-04-08 15:44 | ■週5プロジェクト13
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