いじめの構造 なぜ人が怪物になるのか
内藤朝雄、講談社現代新書、2009 1922冊目 学校という集団の「群生秩序」。群れの付和雷同の中で、全能を配分することによって是非を分つ、情動の共振から生じる秩序のこと。38 ノリや、空気を読む事が求められる。 それは、固定的で逃げることのできない集団に、自然発生的に生まれる秩序である。 それに対して、さまざまな個性のある人が共存するために求められるのは 「自由な社会を維持するためには、構造的な力関係によって人格的な隷属を引き起こしやすい社会領域(学校、職場、家族、地域社会、宗教団体、軍隊など)に対して、個人の自由と尊厳を確保しやすくするための制度的な介入のしくみをはりめぐらす必要がある。207 具体的には、閉鎖空間の条件を変える。生活圏の規模と流動性を拡大する。 公私の区別をはっきりさせ、客観的で普遍的なルールが力を持つようにする。210 損得を考えずに「全能具現」に走る人口は少ない。大多数は「計算ずく」でワルノリに参加する。235 例えば、以下のようなことが起こらないように制度設計をする必要があるのだという。238 ○魔女狩りは狂騒的なお祭り騒ぎであると同時に、効率のよい金儲けの手段でもあった。 ○日本では、しばしば、学校の暴行教員は、非暴力的な教員よりも「指導力」が認められて、教頭や校長への出世に有利である。 ○戦時中の軍部では、非現実的な主張で気迫を示す演技が仲間内での立場を安泰にし、臆病者というレッテルを貼られたら自殺を強要されることすらあった。 ○いじめが蔓延する教室で、キレる実演は自分の立場を有利にする。 ○文化大革命時の中国では「悪のり」することが同時に保身の術でもあった。 ○民族的憎悪や宗教的憎悪の盛り上がりによる殺戮というかたちをとる紛争は、じつは、さまざまな有力グループに寄る「合理的」な利権獲得競争の延長でもあった。国際社会が前もって利害構造をコントロールしていれば、これほど残酷なことは起きなかったはずである。 第7章では「構造的な力関係によって人格的な隷属を引き起こしやすい社会領域(学校、職場、家族、地域社会、宗教団体、軍隊など)」を中間組織と呼んでいる。そして、そこに生まれる「全体主義」がいじめの構造だと。 「各人の人間存在が共同体を強いる集団や組織に全的に(頭のてっぺんからつま先まで)埋め込まれざるをえない強制傾向が、ある制度・政策的環境条件のもとで構造的に社会に繁茂し、金太郎飴の断面のように社会に偏在している場合に、その社会を中間集団全体主義という。」253 事例としてあげられているのが以下のような「小権力者が社会が変わると別人のように卑屈な人間に生まれ変わる」例である。 ○戦時中の隣組 ○中国の文化大革命仮面と役柄で生きる 著者は、社会の制度設計によって「群れた隣人が狼になる」メカニズムを発現させないようにすることが大切だという。251 戦前には、国家的全体主義に加えて「天皇制」という金太郎飴(形態的同一性)が社会に蔓延していた。戦後、国家的全体主義は衰退したが、中間集団全体主義は形を変えて継続し、高度成長期には「学校社会」のモデルが席巻した。会社が社員を子ども扱いし、囲い込んでいた。「高度産業資本社会に共同体的な組織編成原理を埋め込んだ。」 ローカルな秩序。 国家的全体主義からも、中間集団全体主義からも自由な社会。 それがめざすべき未来であろうが、自立していない個人がそれを選択することはないだろうなあ。だって、学校社会が、「形態的同一性」のモデルとして、人を育てているのだから。学校が変わらないと、無理だね。
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| 2013-02-21 21:44
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