北九州市教育委員会総務部総務課
御中
〒803-8510 北九州市小倉北区大手町1番1号 電話:093-582-2352 FAX:093-581-5871 2012年8月9日 角田尚子 特定非営利活動法人 国際理解教育センター リスク・コミュニケーション研究会 北九州市の「瓦礫受入れの決定」について、教育委員会が配布した小中高、児童生徒に対する資料について、市民団体から申し入れがあった様子を録画で見ました。 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/25880 まだ、配布資料そのものは入手していないのですが、申し入れの内容から、そして答弁の内容から、行政の決定を解説・支持するような内容なのであろうと推察し、その限りにおいての意見をまず述べたいと思います。 ネットでの意見を出すことも可能でしたが、1000文字という制限がございましたので、お手紙といたしました。ご了承ください。 気になった発言や視点が三点ございます。 一つは「同じ行政として」というご発言です。 教育委員会と行政は独立しております。なぜ、独立していなければならないのか。行政は政治的決着に従ってことを行い、教育は政治的決着に参加する市民を育てるからです。市民においては、いずれの意見も存在するが故に、教育が政治的決着のその結果を伝達する機関になってしまってはならないのです。 『犠牲のシステム 福島・沖縄』(高橋哲哉、集英社新書、2011)において、高橋氏は、「国の決定に従うことを言明した専門家は科学者ではない。」と述べておられます。 http://ericweblog.exblog.jp/15707377/ 北九州市教育委員会は、この視点について、どのようにお考えになるのでしょうか? 行政の決定を後押しすることを決めた科学は「科学ではない」とはお考えになりませんか? 二つ目は、正しく「科学」そのものについて考え方・教え方の問題です。 会見の中で、何度か、「科学的に証明されている」「合理性がある」という発言がありました。それに対して、市民団体の側がECRRや内部被ばくについての詳細な科学的知見をあげて、それらの知見を踏まえてのことなのかと問いただしておられました。また、「科学者の間でも論争のあることなのだ」との指摘もありました。 わたしたちの団体、特定非営利活動法人 国際理解教育センターでは、昨年、日立環境財団の助成金を得て、「リスク・コミュニケーション研究会」を行いました。その中で10人の専門家の方々にお話をきき、いまの教育の課題は何かを問いました。結果、リスク・コミュニケーション教材のガイドラインとして、以下の4点が重要であることが共通していると、思われました。 http://focusrisk.exblog.jp/14128591/ 1)科学観を教えるものであること。 これは、東京大学の藤垣氏がイギリスの教材を事例に引きながら、「科学とは疑う心であること」「いまの既成の科学を疑うこと」だと述べられています。科学の歴史をひもとけば、これがより望ましい科学に対する、そして、福島原発事故を民族的共有体験としてしまったわたしたちとしては、科学技術に対しても、育てるべき態度だと思います。そして、そのような態度は、大阪大学の小林氏も指摘されるように、育っていなかったのだと。安全神話に踊らされ、科学に対する無批判な信頼、思考停止状態を創り出してしまったことを反省しなければならないのだと。事故から一年半。論争のある問題について、いずれか一方の科学の結論を擁護する形で情報を、子どもたちに伝えるのでよいのでしょうか? 2)シチズンシップを育てるものであること。 科学は、中立ではありません。原子力行政のこれまでが示しているように、原子力という科学は、政治的選択の結果として巨大な投資と利潤を生み出す打出の小槌として育ってきたのです。ニュートラルな科学が存在しにくくなったということは、科学と社会のあり方について問う社会科学の知見も取り入れられていくべきでしょう。宮代慎司氏は、日本という社会に原発を持つ資格がなかったのだと、原発行政のあり方、規制のあり方、管理のあり方を問うています。いまや科学は、市民社会による不断のモニタリングの元で、運用を決定されなければならない時代なのです。 そのもっとも有名な事例がデンマーク科学局による市民参加による科学技術についての意思決定の方法論についての試行実験でしょう。シナリオ・ワークシッヨプやコンセンサス会議など、これまでにはない合意形成の方法論をていねいに展開しています。これからの科学は市民参加によって試される。そのような市民性を育てることが、リスク・コミュニケーション教材には必須なのです。 わたしたちがインタビューしたJAEAの高下氏は、事故前の「リスク・コミュニケーション」ワークシッョプの難しさについて、「関心の低さ」を上げておられました。わたしたちはの社会が、もし、原子力に対する関心の低さを育ててきていたのだとしたら、そしてそれを今後も続けるとすれば、それは福島原発事故被災者20万人に対して、非誠実だと言わざるを得ないでしょう。いまなすべき教育は、子どもたちが、わたしたちの社会の共通の課題に関心を持ち、もうちょっと考え続ける姿勢を育てるこではないでしょうか。 シチズンシップ教育の三原則を引いておきます。「コミュニティ意識・社会的課題への関心・ポリティカル・リテラシー」 『市民性教育 Education for Citizenship』Holden and Clough, 2002 3) 思考スキルを育てるものであること。 では、科学教育とは、何を教えるべきなのでしょうか? 科学教育とは、結果を教えるものではなく、「考え方」を教えるものです。「行政が判断したことだから、すでに、科学性・合理性は担保されているんだよ」という教えかたが、この考え方にのっとったものと言えるかどうか、疑問です。重要な思考スキルの中に、「反証する」「反対意見を認める」というのも入るのではないでしょうか。 4) 社会とリスクの関係について学ぶこと。 リスクは科学的・政治的・社会的判断です。市民運動団体の存在そのものが、「議論可能性」のある課題であることを示しています。配布資料に、そのような市民団体が存在すること、彼らの主張が紹介されていたかどうかわかりませんが、もしそうでないとしたら、教育委員会は、この反対運動に関わっている方々の子どもさんたちが、学校でどのような存在となるか、どのように扱われるかを考えられたでしょうか? 「行政の訣丁したことを伝える」という立場では、議論の余地のない伝え方となる恐れが十分にあり、そうでない意見の人々が排除される場を作り出すのではないでしょうか? それは、いまのいじめの構造を強化するだけなのではないでしょうか? 教育委員会自体が、「排他的な行動」につながる考え方を強化したというのであれば、それは、自らの独立性の放棄ととられても仕方のないことだと思います。 三点目はすでにガイドラインの市民性の視点でも触れたことですが、子どもを社会の参加者として育てるという視点です。教育委員会の方々も市民団体の方々も、異口同音に「子どもを守る立場」とおっしゃっておられました。確かに、子どもの権利「生存・保護・発達・参加」から考えれば、大人の責任として「保護」することは必要でしょう。しかし、「保護」は主体性の発揮のために行なうのです。子どもたちがいま発揮すべき主体性とは、「参加」の権利なのではないでしょうか? 配布資料において、子どもたちの「参加」の権利に対する配慮がどのようになされていたか、ぜひとも知りたいところです。 順番が、前後してしまいますが、返信用封筒を同封いたします。小中高に対して配布されました資料をお送りください。よろしくお願いいたします。 わたくしの上記のような指摘が、的外れであることを願っています。 敬具 住所・返信用切手 その他
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| 2012-08-09 12:53
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