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Portrait of a Turkish Family あるトルコの家族の肖像

Portrait of a Turkish Family
Irfan Orga、初出1950

イスタンブールで唯一の英語でトルコについて紹介している本を扱っているという本屋、Book Store。スルタンアフメット駅のすぐ近く。着いたその日にブルーモスクを訪ねた帰り道に、見つけた。トルコ語英語辞典かなにかを買いたかったんだけれど、店員さんがとても売り込みがうまく、買わされてしまった。旅行中に読むのもいいかとも。

結局、帰国してからも読み続けることになった。読み出したら止められないよ、という売り文句はあながちうそではない。日本でも明治時代の豪商たちは絹糸や蚕卵、木ロウなど、日本の一次産業製品、工業品などを輸出して富を築いた。どうやら、近代トルコにおいても絨毯などの製品の輸出で大儲けした人々がいるらしい。この本は、そのような富豪の家に生まれた著者が、6歳の頃、1913年から1940年の母の死までを綴ったもの。

女性は家から出るにも許可が必要な上流階級。顔を隠すスカーフ、窓にもkafe覆いが不可欠だ。召使いと乳母にかしづかれる豊かな生活。子ども時代の思い出。上流階級の独裁的な雰囲気をまとう祖母。おとなしい母。

しかし、ドイツの戦いにトルコからも出兵することになる。叔父と父親が徴兵され、そして戦死。

母親に残されたのは、出兵前に事業を売り払って作ったお金と宝石類。それすらも火事でうしなってしまう。家とともに。

三人の子どもを抱えて、スカーフをとり、働きに出る母親。ミシンの腕前を買われてのことだ。しかし、その工場もすべての衣類生産が軍需化され、閉鎖される。本格的な飢えに見舞われる家族。その中でも母親は近所の人を助け、分かち合い、尊敬を勝ち取る。

街は、日本の戦争中のような欠乏と飢餓状態と同じ。農民に食べ物をゆずってもらうために、上等なリネンを持って行ったりするところもそっくりだ。

ドイツのミッショナリーが経営する孤児院に入れられる筆者と弟。
戦争が終わり、母親は今度は刺繍で身をたてはじめる。

筆者と弟は戦後設立された軍事学校に入学。大学まで無償だが、その後15年間は軍隊に勤めるという条件だ。弟は医者になりたいという意思で入学。特になんの思いもなく、筆者は空軍士官となっていく。

母親が学校に筆者を訪ねてくる。生徒たちが「顔を出している母親」を揶揄するので、筆者は母親にスカーフで顔を覆ってくれるように頼む。

母親が貧困の中で、戦争中に獲得した自立と自由は、息子が戻って行った「平常」と獲得していく経済力の中で、失われて行く。

息子は、母親の自立や自由を尊重しはしないのだ。朋友に対し、彼女が払った犠牲とスカーフをとって働いてきた姿を、誇りはしないのだ。それは、その時代が「飢え」にさらされていた、筆者にとっては屈辱の時代であったからだけではないように思う。

息子は、昔の美しい母を求め続け、そして、空軍の転勤先に伴い、母は精神を病んで行く。かい性のある息子に養われているリッチな母親に満足すべきなのだと思い込みながら。息子を案ずることが自分の役目なのだと。

病院に入れられた彼女は、息子のこともわからなくなる。「ああ、あなた空軍の方ね。わたしにも空軍に入った息子がいるんですよ。ひどい息子なの」と。

母に受入れられないことにショックを受ける筆者。

この本を読む限り、筆者は、その原因が、いま、わたしが見たようなところにあることをまったく理解していない。そして、母その人も、理解していない。息子が求めるままに「母」を演じ続けるのだ。自分を苦しめているのは自我の強い祖母(彼女の義母)なのだと思い込みながら。

ひどい話だ。なぜロングセラーなのだろう? ノスタルジックな美文であることは確かなのだが、語られている話はとんでもない内容だ。フェミニストとしては耐えられない。まさかこんな結末になろうとは。

一度、自立した女性が、その自立を遮られることは、暴力以外のなにものでもないことを、この本は確かに語っている。それとは知らずに、であるが。

そのような暴力をふるっていることを、ふるっている側もふるわれている側もまったくわからないのが、悲劇である。

アタチュルクの政策の一つにFez=トルコ帽の禁止もあったんだね。

トルコの女性のスカーフ率。田舎は高い、ね。

次回、トルコに行くことがあったなら、スカーフはやめておこう。わたし自身も問題の一部にならないように。でも、女性にインタビューしたいなら、スカーフは必須アイテムですな。スカーフしていると珍しげに寄ってきてくれる。
by eric-blog | 2011-09-16 12:28 | ■週5プロジェクト11
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