62-5(282) 創造と伝統
川喜田二郎、祥伝社、1993 1950年代に川喜田氏が始めたKJ法というのは、ラベルなどの小道具やその作業の名称など、いまやワークショップの定番になっている。そのためかその手法を広めるのに、企業と協力するか、あるいはとさまざまな攻防があったようだ。企業に独占されないために商標登録したりなどの苦労もあったようだ。294-297「KJ法の公共性を維持するために」 自我ではなく「没我」の文明。「われを忘れ」て、個人、集団、組織、そして民族、国家それぞれの段階での、環境を含む「場」への没入つまり「没我」によってなされる創造的な行為。そのことを伝統を踏まえた創造であると、川喜田は言う。 KJ法の真髄についてもしっかり解説しているので、そのおさらいをしながら、彼の思うところにせまってみよう。 ・KJ法とは現場の情報をボトムアップする手段 林業労働者、看護婦、お坊さんがうまく、そして定着し、トップ、大学の先生はだめ。237-238 ・判断の隘路をチームワークで行う方法 問題提起、野外観察(情報収集)、データ分析、構想計画、具体策・手順化、実施、吟味検証というW型プロセスを集団で行う方法 ・データをまとめるための方法がKJ法だが、それは最も狭義のKJ法にしかすぎない。 ・W型問題解決は書斎科学と野外科学と実験科学の方法論の総合である251 ・問題解決の結果を味わう「残心」 ・判断部分は学問的には隘路だが、それを野外科学的方法として確立したのがKJ法254 ・3ないし5は人間にはキャッチし、総合的に理解する能力がある。その能力が誰にでも備わっているということから、方法論を組み立てる。「なぜ備わっているのか」「その物理的な中身は何か」という議論は他の科学ならばたちいりたいところなのだろうが。 ・総合的直観力を無理なく積み上げていく方法。 ちょっと、ここで、KJ法の真髄にあたるところは順を追って書いていく。257 ・定性的データを一枚のラベルにまとめる。その中に含まれる「志」はひとつにすること。つまり、そのラベルが訴えていることをひとつに絞ること。257 ・「ラベル拡げ」「ラベル集め」「表札づくり」によって「志」を整理する。 ・「A型図解化」まとめたラベルの束を配置する。細部図解で複数の作業をするのもいい。 ・最終ステップとしてのB型叙述化。これは文章化、または口頭発表で。 最初のラベルは、フィールド、記録、討議、その他の取材から拾う。 それぞれのラウンドでは、心構えがちがってくる。265 (1) 問題提起ラウンド 宗教家、芸術家のように (2) 状況把握ラウンド 科学者のように (3) 本質追求ラウンド 哲学者のように (4) 構想計画ラウンド 政治家のように (5) 具体策ラウンド ビジネスマンのように (6) 手順化ラウンド 技術者のように 探検の原則267-271 1. 360度の視角で取材せよ 2. 飛び石づたいの取材 3. ハプニングを逸せず 4. 何だか気にかかる 5. 定性的にとらえよ 判断を集約する方法としては「多段階ピックアップ」を行う。285-288 民族とは、その気候風土と生業パターンに一致した人間形成が行われている人たち313 良縁を育てるには、「場の視点」315(これはより高次のアイデンティティの導入、にあたるな)と「夢」316が大切。納得、合意に基づいた協力で夢に向かうことは誰にでも可能。 人間はもともと、自分の創造性を充足しない、充実感がえられず、むなしくなる動物。332 その特性を生かした「組み立て民主主義」が参画によって可能なのだと川喜田は言う。どんどん出し合う「加乗」式アイデアだしをベースに、「衆目評価法」(多段階ピックアップに似ているが得点化していくランキング)によって「減除」式に集約する。 つまり、人間の創造性、5つまでならば総合することができる力をていねいに合意につなげてくいプロセスが「組み立て民主主義」 10数人に対するインタビューで、都知事選の行方をKJ法的に探ったというのだから、おもしろい。352-357 これは彼が「逐次面接」わたしたちが「蓄積的視覚化手法」と呼んでいるやり方で行ったものらしい。そのやり方で10数人ぐらいから、6-700くらいの項目が出て、それ以上はもう出ない、らしい。 自我を原点とする世界感覚に呪縛された西欧近代型文明に対し、没我の文明を。 民主主義の6つの条件373-374 1. 己をむなしくして、情報を語らせる。ボトムアップのパイプの開拓。 2. パイプを活かした現場からの取材能力 3. 主体性を発揮し、個性ある存在としての「伝統体」を認める。 4. 損各社会に役立つノウハウを文化にまで磨き上げ、普及定着させる。 5. 人間の精神公害を改善する創造性開発の推進 6. 以上のすべてを支援し、その基盤となる自然と文化の環境づくりの推進 4番目なんて、まさしくERICが言っていることだよね。ぐげげ 創造的行為とは、「物事を成し遂げる」という体験。 組織公害からの解放 個性探求型方法論へ 自我ではなく、個性はいいのね。 川喜田二郎さんは、1920年生まれ。84歳になられるいまも「KJ法本部・川喜田研究所」を開いて活躍されているようだ。少なくとも平成15年までの研修案内は存在する。
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