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日本人と参勤交代 Tour of Duty

361-2(1555) 日本人と参勤交代 Tour of Duty
コンスタンチン・ヴァポリス、柏書房、2010

参勤交代に関する本は少ない、と後書き代わりの監訳者らの座談に言う。あっても、経済史、政治史というような枠組みでのもので、参勤交代に従事した藩士らの生活が立ち上ってくるようなものは少ないと。

著者は、こんなにあるのか、と驚くほどのたくさんの日記・記録を元に、参勤交代の実態にせまる。プリンストン、ハーバード、イェール、シカゴ、カリフォルニア大学などの博士課程では、日本語に寄る文献講読、史資料の読みなどが行なわれている。海外の日本研究のレベル、おそるべし。

参勤交代は、基本的には軍事行動である。結果、江戸の町は男女比が10対1というほどに偏っていたという。また、町民と武士の割合も半々程度であったというから、江戸が武士の町であった、一方で、数万人という単位での毎年の人の流れは、江戸と地方の相互的な文化交流、情報共有に役立っていた。

わたしの母方の実家は徳島県海南町なのだが、その先に甲浦という港町があり、20年程前までは大阪との間にフェリーが通っていた。あんな寒村に、なぜ? と不思議だったのだが、今回、この本を読んで、甲浦が土佐藩の参勤交代の海路経路にあたっていたことを知った。なるほど、経路の多様性確保、か。室戸岬沖を海路ですすむのは難しいから、そこを陸路で超えて、甲浦まで来て海路。
行き止まりである土佐藩が、多様な経路を確保しようという意図からだ。

軍事行動であることの特殊性も、影響しているのだなあ。

大江戸博物館などにも、江戸時代の生活感覚が紹介されている。
餞別とお土産の文化など、いまに続くものがあり、おもしろい。錦絵などが、持ち運びにも軽く、人気だったのだそうだ。

観劇にせよ、学問にせよ、武術の研鑽にせよ、リアルなものにどん欲に触れて行く生活は、いま以上に互いの交流によって支えられていることがよくわかる。

訳者らの苦労としては、日本語特有の表現を平易な英語にしてあるために、英文としては読みやすかったものも、日本語に訳すとなると、元の原語を探る必要があり、人名、役職名、物品名、食べ物、建築様式、考古学などそれぞれの分野にあたる必要があったとのこと。ひょっとするとこの本、英語で読んでもおもしろい?
by eric-blog | 2010-09-01 07:52 | ■週5 プロジェクト10
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